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2019.02.13

草野雄『水の如し 丈九郎世直し活人剣』 名手が描く美しき静の剣士の物語

 ほとんどが再録ですが、単行本未収録作の収録や書き下ろし追加など、意外な内容であることも少なくないコンビニコミックの世界。本作もその形で一冊にまとめられた作品――時代劇画でありつつも美麗な画風が印象に残る作者による、美形剣豪ヒーローの活躍を描く連作であります。

 その画力は非常に高いものがあるにも関わらず、これまで単行本化された作品が『外道笠』くらいと非常に少ない草野雄。というより寡作なのかもしれませんが、何しろ情報が少ない作家であります。
 本作もかなり以前から「コミック乱」誌でシリーズ連載されていたというくらいしか、恥ずかしながら存じ上げないのですが(書誌情報が乏しいのがコンビニコミックの最大の弱点ですね――と責任転嫁)、何はともあれこうしてまとまったのは欣快の至りです。

 さて、本作の主人公は無明丈九郎と名乗る美丈夫の浪人。江戸市中の寺・無月院に仮寓し、寺子屋で子供たちに字を教えたり、畑で野菜を育てたりしながら、寺の和尚や美しい尼僧・夕子と静かに暮らす日常であります。
(実は丈九郎は徳川将軍家と関係がある人物らしく、中盤から将軍直属の隠密らしい天真爛漫な美少女・忘れな草が何かとまとわりついてくるのですが、深い事情は物語では触れられぬままであります)

 そしてこの丈九郎は剣の達人。普段は決して自分から刀を抜くことはありませんが、許せぬ悪人や、苦しむ無辜の民に出会った時に彼が振るう太刀は、さながら水の如し無形の剣で――というのが本作のタイトルの由来となっております。

 しかし、「丈九郎世直し活人剣」というサブタイトルや、「江戸に巣食う悪党を断罪! 剣戟アクション冴え渡る時代ヒーロー活劇!!」という表紙の煽り文句とは裏腹に、本作はむしろ、動よりも静のイメージの強い物語。
 何しろ丈九郎自身、侍の論理というやつが大嫌いで、忠義のためや武士の意気地というのを白眼視する人物。動くのはただ義によってのみ――であるため、いきおい受け身になりがちなのですが、しかしそれはむしろ作者の絵柄に非常に良くマッチしていると感じます。

 著作を調べてみると、パステルや色鉛筆によるイラストの教本を数多く発表している作者だけあって――というべきか、その絵柄は描き込まれているようでいて、いい意味で軽みがあり、重く厳しい物語であっても、華やかさや叙情性を感じさせてくれるもの。
 そしてその最たるものが登場する女性陣の美しさであります。夕子や忘れな草といったレギュラー陣はもちろんのこと、毎回のゲストキャラクターもまた、時に儚く、時に力強く、時に憎々しげに――ふとした表情一つとっても皆それぞれに美しく、強く印象に残るのです。


 と、少々話が逸れましたが、一見「定番もの」的なスタイルでありつつも、それぞれにバラエティ豊かなストーリーが並ぶ本作。人々を苦しめる悪党退治のエピソードももちろんありますが、それ以上に一ひねり加わった個性的な物語も数多く収録されています。
 例えば以下のように……

 自分とそっくりな、しかし剣はからっきしで女ったらしの浪人と出会った丈九郎が、自分と正反対の相手と不思議な交誼を結ぶ「忘れな草」
 院の近くで丈九郎に救われた病身の美女との交流と、姿なき謎の暗殺者との死闘が哀しく交錯する「紅」
 当代の侍の軟弱振りを嘆く二人組のタイ捨流剣士に、強者と見込まれた丈九郎が執拗に決闘を迫られる「死狂い一番」
 無月院の墓に詣でる御家人の妻が破落戸に脅されているのに出会った丈九郎が、やがて彼女の思わぬ秘密を知る「影法師」
 過去の事件から人生に絶望し、丈九郎の美しさに魅入られて彼に斬られることを望む絵師の姿を描く「月よりの使者」

 その他にもその絵柄に相応しく、物語も人物描写も味わい深いエピソード揃い。全15話という、単行本2巻分のエピソードが収められた実にお得な内容だけに、少しでも多くの方の手に渡って欲しいものであります。


 そして願わくば――できればコンビニコミック以外の形で――このほかにもかなりの数があるはずの草野雄の作品が、単行本の形でまとまることを祈っているところです。


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