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2019.02.04

武内涼『妖草師 謀叛花』 これぞ集大成、妖草師最後の激闘!


 作者の代表作にして『この時代小説がすごい!』第1位に輝いた『妖草師』シリーズの第5弾、そして最終巻であります。常世の妖草を討つ妖草師・庭田重奈雄が今回挑むのは、妖草を操る残忍な盗賊団、そして更なる巨大な陰謀――重奈雄最後の戦いが始まります(物語の展開に触れますのでご注意下さい)。

 常世(異界)に芽吹き、人の心を苗床に育つ奇怪な植物、妖草。時にこちら側の植物に似た姿を持ちながらも、奇怪な――そして多くの場合危険な能力を持つ妖草の正体を見破り、対処するのが妖草師であります。

 主人公・庭田重奈雄は、代々京で妖草と戦ってきた家の出身――故あって家を追われ、市井で暮らしながら、妖草がこの世に出現した時には、これと敢然と対峙してきた青年。
 様々な戦いの末に実家とも和解し、華道池坊家の娘、そして妖気を見破る天眼通の持ち主である椿との婚礼も秒読みの中、重奈雄は新たな事件に巻き込まれることになります。

 大坂をはじめとして、西国を騒がす凶盗・青天狗一味。厳重に守られた商家に容易く忍び込み、そして家の者たちを悉く殺して金品を奪うという残忍極まりない彼らが、京にも現れたのであります。
 現場に残された一枚の葉から、この青天狗一味が妖草を操ることを知った重奈雄。重奈雄がかつて妖草から救った娘の実家が一味に襲われ、彼女を残して皆殺しにされたこともあり、重奈雄は一味の根絶を誓うのでした。

 そんな彼と共に一味を追うのは、関東妖草師となるべく重奈雄に師事してきた男装の美女・かつらと、町奉行所の同心たちが頼りにするベテラン目明かしの重吉。
 残された小さな手がかりから、一味の中に美濃郡上藩で数年前に起きた郡上一揆に関わっていた者がいたことを知り、郡上藩に潜入する重奈雄たち。彼らがそこで見たものは、武士と百姓が、そして百姓と百姓が分断され、激しく憎み合う姿でした。

 その憎悪を養分にして妖草が育っていく中、重奈雄たちはついに一味の首魁と対峙することになるのですが……


 これでファイナルということもあってか、実に400ページ近い(分量でいえば前作の約1.5倍以上)大作である本作。それ故に――というべきか、物語はここまででまだ半ばにすぎません。一つの謎が解け、一つの戦いが終わった後も、舞台を移して更なる戦いが描かれることになるのですから、大盤振る舞いであります。

 はたして青天狗一味の背後に潜むのは何者か、その真の目的は何か――愛する椿や仲間たちとも離れて異郷で戦う重奈雄を助けるのは、かつて妖草・一夜瓢にまつわる事件で彼と関わり合った狷介な天才・平賀源内。
 そして執念の探索を続ける重吉が掴んだ賊の手がかりとは、重奈雄の下を卒業して関東妖草師となったかつらを待つ新たな出会いとは――物語は様々な要素が絡み合い、最強の妖草を操る敵が潜む、魔城での決戦へと突き進んでいくのであります。


 さて、これまで様々な生態と奇怪な能力を持つ妖草を幾つも生み出してきた本シリーズですが、本作は間違いなくその集大成。
 鉄棒蘭や楯蘭、知風草など、これまで重奈雄の頼もしい武器として活躍してきた妖草はもちろんのこと、剣呑極まりない能力を持った新たな妖草も様々に登場し、妖草を操る者同士の派手な能力バトルが繰り広げられることになります。

 特に本作のある意味中核をなす最強の妖草との対決においては、ある意味ゲームもの的な読み合いあり、西部劇テイストの決闘あり――と、これでもかとばかりに繰り広げられるバトルのバリエーションの豊かさにはただ脱帽するしかありません。
 さらに江戸で重奈雄が婚活パーティー(!?)に潜入するというコミカルなくだりがあると思えば、ちょっと意外なキャラクターの切ないロマンスありと、そのボリュームに相応しい盛りだくさんの内容であります。


 もっとも、残念な点もいくつかあります。これまでシリーズで活躍してきたある人物が登場しなかったり、話の流れもありますが、椿があまり活躍しなかったり――と。
 何よりも本作でシリーズが完結(にもかかわらず、まだまだ続けられそうだったり)というのがその最たるものなのですが――しかしそれを言うのは野暮というものでしょうか。

 ここは妖草師最後の激闘を――その背後に見え隠れする、作者ならではの現実世界に対する鋭い視線も含めて――理屈抜きで楽しむべきなのでしょう。
 何度も述べたとおり、本作はシリーズの掉尾を飾るに相応しい戦いの連続と、スケールの大きさを誇る物語なのですから……

『妖草師 謀叛花』(武内涼 徳間文庫) Amazon
謀叛花: 妖草師 (徳間時代小説文庫)


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