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2019.03.02

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第13章の4『四十七羽の鴉』 第13章の5『錆』 第13章の6『あきらめ聖』


 盲目の美少女修法師・百夜が付喪神や亡魂を向こうに回して活躍する『百夜・百鬼夜行帖』の第13章も後半戦に突入。大敵との連戦で霊力が弱まった百夜の力もほとんど復活してきた様子ですが、さてそんな彼女の前には相変わらず奇怪な事件が……

『四十七羽の鴉』
 雑司ヶ谷の産土神の社に現れ、社の周囲にのみ聞こえる声で鳴き続けるこの世のものならざる鴉。地元の神主もお手上げのこの怪異を収めるため、百夜(の弟子の桔梗)を頼ってきた村の男の依頼で、百夜たちは山を下りることになります。
 聞けばその社では、数ヶ月前に一人の女が自殺しているとのこと。その亡魂の正体が、板橋宿の女郎であったことを知った百夜は、鴉たちの正体に気付くのですが……

 前回、再修行のために山に籠もり滝行を行っていた百夜と桔梗ですが、しかし成果はあったらしく、今回でそれも終了。はるばる桔梗を尋ねて雑司ヶ谷からやってきた依頼者のために、山を下りることになります。
 されはさておき、今回の物語はタイトルそのものがヒントとなっている事件であります。民間信仰に詳しい方であれば、何が事件の引き金となっているかにはすぐ気付かれるかもしれませんが――しかし物語はそこからが本番です。

 何故女の亡魂が鴉たちを招いたのか、そして何故女は死んだのか――それこそが、この物語で真に明らかにすべき謎。不幸な女の想いのために百夜が取った行動も面白いのですが、左吉の意外な(?)男気も印象に残るエピソードです。


『錆』
 油問屋・大和屋に夜毎現れる錆の山。さらに奉公人たちが店の中を歩く亡魂を目撃し、百夜のもとに依頼が舞い込むことになります。
 店の主の兄が、金策の旅に出てそのまま帰らなかったことを知り、その亡魂が店に現れているのではないかと考えた百夜と左吉。二人は男の足取りを追いながら、推理競争を始めるのですが……

 ほぼ完全復活した百夜が今回挑むのは、出現した後に錆を残すという謎の亡魂。その正体は早い段階で判明するものの、それでは何故錆が残るのか――その謎解きが物語の中心となります。

 その謎解きもなかなか面白いのですが、それ以上に今回目を引くのは、百夜がノリノリで左吉と推理競争を始めること。
 元々「名探偵皆を集めてさてと言い」的な行動が好きな百夜ですが、今回はかなり楽しそうで――考えてみれば故あって侍言葉ではあるものの、彼女もまだ若い女性、こういう茶目っ気が本来の彼女なのかな、と思わないでもありません。

 しかし事件自体は迷える亡魂に関わるものです。その調伏を推理競争のネタにしてよいものか……と思っていたら、意外な人物からツッコミが入ることに。それに対する百夜のリアクションもあり、ちょっと彼女の素顔を覗けた印象であります。


『あきらめ聖』
 最近江戸に出没するおかしな聖。その話を聞けばいろいろなことを諦めさせてくれるということから、「あきらめの聖」と呼ばれるその人物の周囲には、「あきらめ衆」なる弟子たちまで集まっているというのであります。
 話を左吉から聞いて聖のもとに向かった百夜は、聖が屁理屈で施しを受けている一種の仕掛者(詐欺師)と見て、その行動を注視するのですが……

 第13章のラストとなるのは、シリーズの中でもある意味最大の異色作。特に怪異らしい怪異が起こるわけでもない中で、百夜は不気味な人物と対面することになります。
 すべてを諦めば、心穏やかに暮らせる――そう語る「あきらめの聖」。彼自身は自分を聖などではなく一種の芸人と語るものの、しかし不思議なカリスマで人々を引きつけるこの怪人物と百夜との問答が、物語の結構な割合を占めることになります。

 果たして彼は何者なのか――それはここでは語りませんが、百夜の目に映るその心の中にあったものは、ある意味、付喪神や亡魂よりも恐ろしく、危険なもの。こんな人間もいるのか――という感慨では済まされぬ不気味さがそこにはあります。
 そしてもう一つ、本作で鋭く抉るのは、そんな彼の回りにたむろする「庶民」の存在です。長いものには巻かれ、一人がやり始めると我も我もとなる。そんな無定見な人々が、聖を存在させているのかもしれない――そんな気持ちもいたします。


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