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2019.03.17

平谷美樹『百夜・百鬼夜行帖』 第14章の1『あぐろおう』 第14章の2『妖刀』 第14章の3『幽霊屋敷』


 盲目の美少女修法師が様々な怪異に立ち向かう『百夜・百鬼夜行帖』シリーズ、最新の第14章前半の紹介であります。ある謎を巡って展開していくこの章ですが、前半で描かれるのは、何やら百夜の腕前を試そうという不可解な試みで……?

『あぐろおう』
 怪異専門の読売屋・文七が仕入れてきた奇怪な噂。ある侍を中心に、悪霊憑きを探している一団がいるというその噂を探っていた文七は、悪霊に取り憑かれたとある商家の娘を、件の侍が大身旗本・土井勇三郎の屋敷に連れ込んだことを探り当てるのでした。
 と、そこで百夜のもとを尋ねてきたのは当のその侍――村島孫兵衛と名乗った彼は、娘に憑いた悪霊「あぐろおう」調伏を百夜に依頼してくるのですが……

 というわけで、悪霊を調伏する修法師ではなく、悪霊憑きを探している侍という、何とも奇妙で不可解な出来事から始まった本章。しかもその侍が仕えるのが、無役ながら旗本寄合席――すなわち三千石以上の大身旗本なのですからなおさら奇妙であります。
 一体何が起きているのか、まだ百夜にも分からない状態ですが――しかし悪霊に憑かれて苦しんでいる者がいるのであれば、もちろん放っておくわけにはいきません。しかも取り憑いているのが「あぐろおう」、すなわち東北最強の悪霊ともいうべき悪路王だとすれば――ん? 「あくろおう」ではなく?

 と、本章を貫く大きな謎はさておき、ユニークなのはこの小さな謎。わかってみればなあんだ、という印象もありますが、これはある意味、百夜だからこそ(まあ、鐵次でもOKですが)解決できた事件かもしれません。


『妖刀』
 持つ者を不幸にするという妖刀・夕凪。大枚はたいてこの妖刀を手に入れた土井家の家老・村島孫兵衛から、百夜は調伏を依頼されることになります。
 度重なる奇怪な依頼に、百夜から一連の出来事の背後を探るよう命じられた左吉は、不良武士・宮口大学から、土井勇三郎が旗本たちの厄介事処理を生業としていることを聞かされるのでした。

 さらに夕凪が、戦国時代から持つ者を操り、次々と殺戮を繰り返してきたことを知った百夜は、土井家に急ぐのですが――時既に遅く、夕凪に魅入られた村島が百夜に襲いかかってきて……!

 前話に引き続き、百夜に絡んでくる土井家の村島。その真意はどうやら腕試しらしいことはわかるのですが、何故百夜の腕を確かめようというのか、そして前話の悪霊憑き探しとの関係は――まだまだ謎だらけであります。

 それはともかく、本作の題材はそのものずばりのタイトルが示すとおり妖刀。付喪神との対決を中心としてきた本作ではこれまで登場しなかったのが不思議なくらいの存在ですが――妖刀ものの定番と言うべきか、遣い手の手に渡ってしまってさあ大変、となります。
 互いに達人同士の戦いの行方は――旗本絡みのエピソードということで出張ってきた大学のリアクションも愉快な一編であります。


『幽霊屋敷』
 とある大身旗本の屋敷に幽霊が出ると聞きつけた村島。屋敷の離れに老婆の幽霊が出没するのを目撃した村島は、百夜に三度調伏を依頼してくることになります。そこで屋敷に赴いた百夜は、幽霊が出没する理由にすぐに気付くのですが……

 今回も非常にストレートなタイトルの一編。実際には幽霊屋敷という言葉から受けるイメージほど大がかりな怪異ではないのですがそれはさておき、冒頭で村島が経験する怪異は、作者ならではの迫真の描写で印象に残ります。
 そして百夜が解き明かす真相も小粒ではあるのですが、しかし――これが原因でそんなことになるなんて、というある種の残酷さも含めて――個人的には身につまされるものであります。

 さて、本作の怪異調伏の一方で、本章の本筋も少しずつ明らかになっていくことになります。大学の調べによれば、土井家を頻繁に訪れている旗本たちが、何者かに強請られているらしいのですが――それと百夜の腕試しにどのような関係があるのか。
 章の後半では、シリーズ初の全三話構成で、奇怪な真実が描かれることになるのですが、さて……


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夢幻∞シリーズ 百夜・百鬼夜行帖79 あぐろおう 百夜・百鬼夜行帖シリーズ (九十九神曼荼羅シリーズ)夢幻∞シリーズ 百夜・百鬼夜行帖80 妖刀 百夜・百鬼夜行帖シリーズ (九十九神曼荼羅シリーズ)夢幻∞シリーズ 百夜・百鬼夜行帖81 幽霊屋敷 百夜・百鬼夜行帖シリーズ (九十九神曼荼羅シリーズ)


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