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2019.03.08

星野之宣『海帝』第2巻 海に命を賭ける者「たち」の旅立ち


 明の時代、七度もの大航海を成功させた実在の宦官・鄭和の冒険を描く本作も、この第2巻でついに艦隊が出航することになります。彼らが最初に向かう地は占城――そこで思わぬ窮地に陥った鄭和の運命は、そしてその先で描かれる意外な物語とは……

 明の威信を諸国に知らしめるため、時の皇帝・永楽帝から大船団派遣を命じられた鄭和。倭寇・黒市党の協力を取り付けた鄭和は、いよいよ出航の時を迎えるのですが――鄭和は、永楽帝に除かれた建文帝とその娘を匿い、海の向こうに逃がそうという大胆な企てを胸に秘めていたのです。
 しかしその動きを察知した秘密警察・東廠が船内に侵入。建文帝の存在を永楽帝に知られれば全ては無に帰すことになるのですが……

 と、出向前から大ピンチですが、それに屈する鄭和ではありません。武闘派宦官の面目躍如たる大暴れを見せた鄭和は、これ以上ない形で、船出を飾ることになります。
 そして出航した艦隊の最初の目的地は占城(南ベトナム)。使節として訪れていた王子を送っての寄港ですが、温暖な気候で平和な地と思われたこの地もまた、争いとは無縁ではないことがすぐに明らかになります。

 それは占城の北、越南の存在――王を追ってその座に就いた簒奪者ホー・クイ・リが、今度は占城を狙って、大胆にも鄭和の目の前で侵攻を開始したのであります。
 一歩間違えれば越南と占城の、いや越南と明との開戦になりかねないこの事態。いやそれ以前に、鄭和自身の命が危険に晒されているのですが――ここ不敵にも単身ホーと交渉してのけるのが、鄭和の強さであります。

 冒頭で鄭和自身の武威を見せておいた上で、それよりもさらに大きな働きを見せる彼の外交手腕を描いてみせる――なるほどこの人物ならば未曾有の大業も成せるかもしれないと思わせる、心憎い展開であります。
 それと同時に、占城と越南の姿に、数百年後の南北ベトナムの姿を重ねて見せるのも、また作者らしい描写と言うべきでしょうか。


 さて、ここまででこの巻の中間辺りですが、ここから先の後半部分では、少々意外な展開が描かれることとなります。
 南シナ海を進み、満刺加海峡の手前までやってきた艦隊。哨戒を命じられた射馬九郎率いる黒市党は、海峡で待ち伏せしていた海賊を易々と発見、追い払うのですが――ここで思いも寄らぬこ事態が発生します。

 逃げ出した海賊船の下から突如として現れた何本もの触手。その巨大な触手は、船員たちを捕まえては次々と海中まで引きずりこむではありませんか! そう、この海峡こそは、現代で言うダイオウイカの群れが潜む海域。無数のダイオウイカが、船を狙って襲いかかる魔の海域だったのであります。

 しかし襲われたのは海賊船の方、黒市党の船は、後退すればこの難から逃れることができる――とは射馬は、黒市党は思わない。
 この海で、人々の航行を脅かす海魔を見逃すわけにはいかない。これを滅ぼすのは、海に生きる自分たちの務めだ――そう決めた黒市党の面々は、勇敢にもこの怪物たちに戦いを挑むのであります。

 実に巨大海棲生物(との戦い)は、ある意味作者の定番の展開。すでに本作にはメガロドンの生き残りも登場しているのですが――ここで描かれるのは、まさかここまでやるとは思わなかった人間vs巨大烏賊の大激突。それを作者の画力で描くのですから盛り上がらないわけがないのですが、しかし本当のクライマックスは、その先にあります。

 戦いが終わり、鄭和に対してある事実を語る射馬。彼らの死闘が、単なる闘志だけでなく――あまりのことに読んでいるこちらが言葉を失うほどの苛烈な――その事実を背負ってのものであったと知る時、大きな感動が胸を打つのであります。

 そしてここで鄭和と黒市党が、実は極めて近い存在であることに気づかされます。
 出航前に東廠を撃退し、誰も知らない広い広い世界を見るために戦うと宣言した鄭和。海に生き海に死ぬ者の誇りと未来のために戦うと誓う黒市党――彼らは共に、未知の世界で生き、そしてそれを妨げるものに命を賭して立ち向かう者たちなのであります。

 そしてそんな人々の姿は、作者のあの名作に重なる――と言うと牽強付会のようですが黒「市」党の射馬九郎(いるまくろう)や弖名(てな)という名を見ると、これは意識しているとみて間違いないのでは……


 何はともあれ、海に挑むのが一人鄭和のみではないと示された本作。この先彼らがどのような冒険を繰り広げるのか、いよいよますます楽しみになるのであります。


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