« まわれぎみ『響銅猫見聞録』  人と猫を繋ぐ道具と涙 | トップページ | 石川優吾『BABEL』第3巻 八つの徳目に対するもの、それは…… »

2019.03.04

重野なおき『真田魂』第2巻 表裏比興の本領発揮!? 武田魂から真田魂へ


 実に約2年9ヶ月ぶりに、『真田魂』の第2巻が発売されました。真田昌幸、信幸、信繁と真田一族の生き様を描く本作ですが、この巻ではある意味彼らの本領発揮。主家の、そしてそれを滅ぼした覇王亡き後の大混乱の中で、したたかに、そして必死に生きる彼らの姿が描かれることになります。

 武田信玄そして勝頼に仕え、奮闘を続けてきた昌幸。しかし長篠で、そして天王山で織田信長に敗れた武田家に、ついに最期の時がやってきて……
 と、前巻での頑張りも空しく(?)この巻の冒頭でついに滅亡してしまった武田家(ここでも長坂釣閑斎がえらく良いことを言うのに、前巻に引き続きびっくり)。悲しみと怒りに沈む昌幸ですが、その想いに浸っているひまはありません。

 何しろ織田軍の侵攻は止むことがなく、武田の遺臣は降るか滅びるかの二択状態。しかもそのどちらを選ぶかの選択権は、時に自分たちの側になかったりするのであります。
 そんな危ない綱渡りの状況で、信長と対面し、大きく領土を減らされることになりながらも首は繋がった昌幸。しかしその直後に起きたのが何であるか――言うまでもありません。

 そう、昌幸が降ったわずか三ヶ月後に、本能寺に消える信長(仕方ないとはいえ、スピンオフの方で先に何度も死ぬ信長さん……)。ここで昌幸ら武田家家臣たちの魂の叫びには思わず噴き出しましたが――それはさておき、ある意味、ここからが本当の戦いの始まりであります。

 武田家が滅び、織田家が大混乱のまま残された甲斐・信濃・上野地域。周囲の勢力からの草刈場にされかねない地域の真っ只中にある真田領を如何にして守るか――この巻の大半を費やして描かれるのは、実にそのための苦闘なのです。

 そしてそれをこれ以上なくはっきりと示すのが、巻末に収録された年表なのですが――
天正十年三月 織田家に従属
同 六月 上杉家に従属
同 七月 北条家に従属
同 十月 徳川家に従属

と、これだけ見れば「何なのこの人!?」となりかねないところを、その原因と周辺事情、各勢力の動きを交えてわかりやすく描いてみせるのは、これはもう歴史四コマのベテランと呼んでもよいであろう作者の筆の冴えというべきでしょう。

 そして、客観的に見ればまさしく「表裏比興の者」としか言いようがない昌幸の行動の根幹に、ただ生き残りのためだけでなく、あるもう一つの想いがあった――というのが実にうまい。
 それはもちろん本作独自のアレンジではあろうと思いますが、しかしこの描写があるだけで、様々な者に屈した――しかし見方を変えれば何者にも屈しなかった昌幸の、真田の魂の在り方が、全く違った形で見えてくるのですから。


 そしてそんな昌幸たちの魂の姿を、ちょっとユニークな角度から描いてみせるのが、本書の巻末に収録された、武川佑による短編小説であります。
 長編デビューの『虎の牙』をはじめ、いま歴史時代小説界で武田家を描かせたらこの人! という印象のある武川佑ですが、ここで題材に選んだのが依田信蕃というのには、さすがに驚かされました。

 昌幸と同じく武田家の旧臣であり、北条氏直と徳川家康が激突した天正壬午の乱において、昌幸を徳川方に手引きしたという信蕃。
 ある理由から後世では無名に近い人物であり、彼を中心に描いた作品もほとんどないのではないかと思いますが――しかし本作で描かれるのは、そんな彼が掲げる最後の「武田魂」とでも言うべきものなのであります。

 この辺りはさすが武川佑と言うべきか、「武田魂」から「真田魂」への変遷を描く、見事な作品であったこの短編。重野なおきと武川佑、どちらの作者にとっても、どちらのファンにとっても、最良の結果に終わったコラボと言うべきではないでしょうか。


 さて、そんな中でも時は流れ、この巻のラストは天正十三年。さすがに家康も怒るよ、という展開を経て、ついに第一次上田合戦開幕!! というところでこの第2巻は終わることになります。
 その直前、信繁が上杉景勝と直江兼続に語ったある事実――誰か一人ではなく、真田「一族」を主人公とする本作にまことに相応しいそれを以て終わるのも、実に心憎いところであります。

 真田ファンとしては大満足の本書、第3巻はこれほど待たないようにしていただきたい――それだけが今の望みであります。


『真田魂』第2巻(重野なおき 白泉社ジェッツコミックス) Amazon
真田魂 2 (ヤングアニマルコミックス)


関連記事
 重野なおき『真田魂』第1巻 あきらめない心の向かう先は

|

« まわれぎみ『響銅猫見聞録』  人と猫を繋ぐ道具と涙 | トップページ | 石川優吾『BABEL』第3巻 八つの徳目に対するもの、それは…… »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 重野なおき『真田魂』第2巻 表裏比興の本領発揮!? 武田魂から真田魂へ:

« まわれぎみ『響銅猫見聞録』  人と猫を繋ぐ道具と涙 | トップページ | 石川優吾『BABEL』第3巻 八つの徳目に対するもの、それは…… »