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2019.03.15

北崎拓『ますらお 秘本義経記 波弦、屋島』第4巻 四半世紀前からの伏線、ついに……


 孤独で荒ぶる魂を持つ源義経の戦いを描く『ますらお 秘本義経記』第2シリーズも、ついにサブタイトル通り屋島の合戦に突入。ついに那須与一を配下に加え、屋島の内裏へ出陣した義経。思いも寄らぬ奇策によって奇襲を成功させた義経を待つのは、しかし……

 京で不遇をかこつ中、少年時代からの縁である瀬戸内の海賊衆の頭目・瑠璃と再会した義経。その彼女を騙して潜り込んだ与一と幾度か目の激突の末、戦意をなくした与一を捕らえた義経は、佐藤継信の取りなしで彼を配下に加え、屋島へと出陣することになります。
 その義経の秘策の要となるのが、瑠璃たち海賊党の船。荒れ狂う海を船に馬を乗せて往くことで、屋島を奇襲しようというのであります。

 兵も馬も船に乗れる数はわずかである中、総大将自ら本隊とは別行動を取って四国に渡り、屋島に乗り込む義経ですが……


 というわけで、ついに始まった屋島の合戦。義経が戦から遠ざけられていたこともあり、大きな戦は久しぶりの印象もありますが、本作のサブタイトルとなっているとおり、ここではこれでもか、と言わんばかりに冒頭からラストまで、いやその先まで、様々な形で死闘が描かれることになります。

 その中心に在るのはもちろん義経。静や萌子の前で見せるのとは全く異なる、狂気に満ちた戦のカリスマとでもいうべき顔を見せる彼に引っ張られる形で、源氏軍は文字通り怒濤の進撃を繰り広げることになります。
 そんな正気の人間であればやるはずもない蛮行の前に立たされた平家の側こそ災難と言うべきか、特に前の巻で生き残るために醜い顔を見せた者たちが、あまりにあっさりと消えていくのには唖然とさせられるほどであります。

 しかし義経たちの目標は平家の兵ではなく玉――屋島の内裏に座す帝の身柄を確保し、そして三種の神器を手に入れれば、そこで戦の帰趨は決するのであります。
 そのために内裏に乱入する義経たちですが――しかし運命はここでも残酷なすれ違いを用意していたのでした。

 与一がこの世で唯一大切に想う存在であり、彼が――義経の下に立って――戦う理由である「姉」、日々子。その彼女はここ屋島で、建礼門院に仕えていたのであります。
 源氏軍の突入によってある「真実」を知らされながらも、懸命にこの地から脱しようと
(ほとんどホラー映画のような展開をくぐり抜けて)する彼女は、しかしその使命感に縛られたが故に、愛しい与一を間近にしながらも名乗り出ることができず……


 この『波弦、屋島』では、もう一人の「ますらお」、もう一人の主人公とも言ってよい存在である与一。
 しかしこの巻では、先に述べた義経の破滅的なカリスマの前に、(実はけっこう常識人である)与一の影は少々薄くなっていたのですが――それをこういう形で、別の角度から光を当ててみせるか、と感心させられます。

 そして、そんなある意味新しいますらおのドラマが繰り広げられる一方で、元祖ますらおの方も、もちろん留まってはいません。この巻の解説ページで、作者自身から幾度も触れられるように、ここでは第1シリーズの時点から用意されていた伏線の数々が、ついに生きることになります。

 それにしても――考えてみれば第1シリーズは、ほとんど四半世紀前の作品。そこでの伏線がついに意味を持つとは、作者にとってはもちろんのこと、当時からの読者にとっても、感慨深い、深すぎるものがあります。


 ……と、浸っているばかりではいられません。

 ここで義経を待ち受けるのは、いずれも彼とは因縁深い平教経――そして彼に策を授けるのは平知盛。いずれも今の平家を支える将ですが、特に知盛は、その幾重にも張り巡らせた策によって義経を散々に苦しめてきた相手であります。
 その知盛の策は――なるほど、この史実をこう描くか、と唸らされるような見事なアレンジで、敵ながら平家最強と呼ぶに相応しい存在感に、感心させられるばかりであります。

 そしてこの死闘の果てに待つものは――あの、源平合戦の中でも屈指の名場面なわけですが、それを本作が如何に描くのか。それを目にする日が少しでも早く来ることを願う次第です。


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