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2019.03.11

伊藤勢『天竺熱風録』第5巻 玄策という男の姿と彼の武器


 ついに始まった摩伽陀国との決戦――陰謀に巻き込まれ、仲間たちを囚われた唐の外交使節・王玄策と、ネパール・チベット連合軍の戦いはいよいよヒートアップ、緒戦は大勝利を収めたものの、まだまだ薄氷を踏む状況であります。果たして玄策たちに逆転の目はあるのか……?

 摩伽陀国の王位を簒奪したアルジュナによって投獄され、仲間たちの期待を背負って副官の蒋師仁とともに牢から脱出した玄策。苦難の末にネパール・カトマンドゥにたどり着いた彼は、ネパールの美しき猛将ラトナと、チベットの豪勇ロンツォン・ツォンポ将軍が率いる八千の兵を得て摩伽陀国に戻ることになります。
 しかしそこで待ち受けていたのは、アルジュナに加勢する異形の一団、アナング・ブジャリの一人・ヴァンダカ率いる三万の兵。これを背水の陣で迎え撃った玄策たちは、乱戦の中でヴァンダカを倒したかに思われたのですが……

 ロンツォンとの激突の最中、暴走する犀に轢かれながらも、どっこい生きていたヴァンダカ。それどころかまさかのキマイラ化――いや獣化兵化――それも違いますがまあそんな感じの大暴れであります。原作では玄策軍大勝利、で済んだこの戦いですが、何とも気を持たせてくれるものであります。

 それでも何とか勝利を収めた玄策たちですが――痛快かつ血沸き肉躍る大合戦の後に描かれるのは、玄策の意外な姿。
 いや、意外と思ったのはこちらのみ、これこそが玄策の真の姿――というべきその姿を、この勝利の直後に描き出すのは、見事というほかありません。そう、玄策は軍人でもなければ英雄でもない、一人の外交官なのですから……


 しかしそれでもまだまだ戦いは続きます。緒戦の勝利を最大限に利用して、アルジュナに揺さぶりをかける玄策。しかしそれは同時に、玄策が牢の中にいないということを知らしめてしまうことでもあります。
 牢の中では彼の従弟・玄廓が替え玉を務めているとはいえ、これはむしろ玄廓が大ピンチ――というところで、すっかり忘れかけていたあの人物が登場! そのほかにも、以前玄策を助けてくれたヤスミナやラージャシュリーたちも再登場、いよいよ「帰ってきた」という気分は高まります。

 そんな中で、アルジュナに決戦を挑む玄策ですが――その前に、師仁とともに、古今の軍略を語り合うのがなんとも楽しい。
 以前の背水の陣ももちろんその一つですが、玄策の持つ武器は外交官としての弁舌のみではなく、彼の学んだ歴史――その中で様々登場した、数々の軍略の知識もまた、彼の武器であるであることを、ここで再確認させられます。

 そしてさらに、ここである理由から絶対使えない――ここで描かれる玄策のコスモポリタンとしての態度もまたシビレる――と思われた策を、とんでもない抜け道を用意して利用してみせるのは、これも玄策の、いやこれは作者ならではの冴えでしょうか。
 さて、この決戦の行方は――これまた本作ならではの大バトル。特に前巻同様、ラトナ将軍の華麗にして苛烈な活躍には魅了されるほかなく――さすがは○○○○の頂点であります。

 しかし、配下が激闘を繰り広げている一方で、どう見てもアルジュナは大将の器ではありません。この辺り、原作ではちょっと残念なところだったのですが――しかしその辺りも本作はきっちりと埋めてきた感があります。
 この漫画版の冒頭から描かれてきたあるキャラクターの思わぬ正体が描かれ、むしろここからが真の戦いとも思わされる本作。この先に待つであろう最後の戦いと、大団円が待ち遠しい――原作を読んでいても、いや原作を読んでいるからこそ思わされる快作であります。


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