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2019.03.14

賀来ゆうじ『地獄楽』第5巻 激突、天仙対人間 そして内なる不協和音と外なる異物と


 不老不死の仙薬を巡り、謎の孤島で死罪人たちが繰り広げるデスゲーム――であったかに見えた物語が、思わぬ方向に向かっていくことになった本作もこれで第5巻であります。島を支配する天仙との戦いの中、見えてきた小さな光明。しかしその一方で思いもよらぬ、それも幾つもの波乱が……

 仙薬を巡る探索と戦いの最中、死罪人と浅ェ門たちの前に現れた謎の存在――天仙。
 これまで現れた怪物たちとは桁外れの戦闘力と生命力を持ち、そして何よりも人間同様の知性を持つ天仙たちの前に、画眉丸をはじめ、死罪人も浅ェ門たちも、多大なダメージを受けることになります。

 そしていま、単独行動をとった画眉丸たちを追いかける佐切、杠、仙汰が辿り着いた島の中心・蓬莱の門で、三人の前に現れた天仙の一人・不空就君ムーダン。
 「人間いじり」が好きという不空就君は、三人のことを歯牙にもかけず、その圧倒的な方術で以て翻弄するのですが……


 というわけで、これまで圧倒的な戦闘力を誇ってきた天仙の一人との決戦が描かれる第5巻。その戦いがこの巻の約7割を費やして描かれているといえば、その激闘ぶりがわかるというものでしょう。
 何しろ、斬っても死なない。常人には見えない攻撃を放つ――と、あの画眉丸ですら、瀕死にまで追い詰められた天仙。その天仙を相手に、いかに三対一とはいえ、生き残り組の中でも比較的常人に近い(ように見える)佐切たちの勝機はなきに等しいというほかありません。

 そんな中で逆転の鍵となるのは「タオ」――天仙たちが操る一種の生命力、いわゆる「気」であります。天仙の力の全てを支えるタオ。しかしそれは彼らの専売特許ではなく、元々は生きとし生けるものが持つものです。だとすれば、タオを使いこなせば、天仙に並ぶことができるかもしれない……
 いや、もちろんそうそう簡単にいくわけはないのですが、しかしそれは、小さくとも決して無視できない希望であることは間違いありません。そして実際に、死罪人たちにも浅ェ門たちにも、以前からそうと知らぬままタオを使っていたもの、あるいはタオに目覚めるものが現れることになります。

 この辺り、何でもタオに収斂してしまうのは、一歩間違えれば強さの全てが同じ源に、同じ表れ方になりかねないところがあって、正直なところちょっと残念ではあるのですが――しかしそれでも、圧倒的な力を持つ相手に戦いの中で成長しながら挑む主人公サイド、というシチュエーションは大いに燃えることはいうまでもありません。
 そしてその戦いの形――定命の人間が不老不死の天仙に挑む姿は、ある意味本作で幾度となく描かれてきた「強さ」と「弱さ」の構図と重なり合わさることによって、これまでにない盛り上がりを見せるのであります。

 が、死力を尽くして天仙を倒したと思えば、彼らは(おそらく皆)第二形態持ち。時代アクションであったはずが、ほとんど狩りゲーのボスキャラのような巨大な、そして即死攻撃持ちの相手に如何に挑むのか……
 いやはや、最後の最後まで気が抜けない、そして同時に人間の、人間の命の強さをこれでもかと見せつけてくれた、本作始まって以来の激闘にして名勝負であります。


 が――死罪人と浅ェ門、いや人間たちの側に微かな光明が見えたかに思われたところで、全く思わぬところから突きつけられる、ある疑い。
 一歩間違えれば、本作を支えるものの一つが根こそぎ喪われてしまうかもしれない、そんな恐るべき疑いが生まれただけで大変なところに、画眉丸に生じたある異変は、この先の戦いが、決して一筋縄ではいかないことを物語ります。

 そして前巻のラストに登場した新たなる四人の浅ェ門と、画眉丸が属していた忍び・石隠れ衆の精鋭四人――先発隊の援軍として送り出される名目ではあるものの、しかし彼らが天仙と戦う人間たちの助けだけになるとは到底思えません。
 倒すべき者とそのための術が見えたかに思われる一方で、内に抱えた不協和音と、外からやって来る異物――この先も予定調和で終わりそうにない物語が続きそうであります。


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