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2019.03.03

まわれぎみ『響銅猫見聞録』  人と猫を繋ぐ道具と涙


 おかしな商人が奇妙な対価と引き替えに、不思議なアイテムを貸して/譲ってくれる――そんなスタイルの作品はしばしば見かけますが、本作もその一つ。しかしユニークなのは、その商人が人間大の猫であって、貸してくれる道具も猫にまつわるものであること。ちょっと不思議で暖かい連作であります。

 時は大正――夜毎家に現れては呼びかけてくる謎の女性に心を惹かれていた小説家の行人先生。そんな彼の前に現れたのは、旧知の道具屋・響銅であります。
 道具屋といっても並の者ではありません。響銅は人間大で二本の足で歩き、人間の言葉を喋る赤銅色の猫。彼は気ままな旅を続けながら、悩める人間に様々な道具を貸し出しているのであります。客の涙を対価に……

 響銅から相手の心の内を聞くことができる「筒抜けの猫」を借りた行人は、ついに幻の美女の真実を知るのですが、その正体は……

 そんな第1話から始まる本作は、「ねこぱんち」「世にも奇妙なねこぱんち」誌を中心に掲載されていた連作シリーズ。物語展開は基本的に第1話と同じで、悩める者の前に現れた響銅が貸し出した道具が不思議な奇跡を起こし、そして客の流した涙を響銅が代価として回収していく――というものであります。
 その意味では物語のスタイルはほぼ固定されているのですが、しかし登場する猫道具が、毎回毎回、バラエティに富んだ内容なのが楽しいところであります。

 例えば、怠け猫を特訓するために響銅が貸し出した「言霊になった猫」を燃料にして動くという「荒魂水滴」。
 言霊になった猫って? というこちらの疑問を、なるほどと思わせる仕掛けも面白い上に、そのビジュアルも実に可愛らしく、漫画ならではの楽しさを味わわせてくれる秀逸な道具であります。

 もちろんそのほかにも不思議で、そして夢のある道具が登場するのですが――それだけでなく、それを借りる人間側の事情、そしてまた涙を流す理由も、それぞれに趣向に富んでいるのが、本作の最大の魅力でしょう。

 特に、心にわだかまりがある人が落とす木の実を見る力を持った孤独な少女が、響銅からその実を割る道具を借りてみれば、そこから出てきたのは……という「虚噛人形」、とある学生寮で昔から名誉監事を務める猫・小杜さんの秘密を探る学生が不思議な毛糸玉の力で知った真実「追懐解きの玉」など、物語の内容と道具の力、そしてその中に浮かび上がる人と猫との結び付き――と、なかなか完成度の高いファンタジーと言えます。

 もっとも、最初のうちは明らかにこの世の者ならぬ存在である響銅を、周囲がごく普通に受け入れているのに違和感を感じたり、舞台が大正の割にはあまり「らしさ」がなかったり――という点がひっかかりはしました。
 しかし前者については物語をラストまで読めば、その理由は何となく察せられますし、後者については、この手の作品ではちょっと珍しい、シベリア出兵を題材にした――それも想像以上にスケールの大きな幻想譚「幽結びの井筒」があったりと、すぐにそんなことは忘れて、存分に猫幻想の世界を楽しませていただいた次第です。


 さて、そんな物語の狂言回しとなるのが響銅ですが――ある意味このような作品の定番と言うべきか、謎だらけであった彼自身のことも、物語が進むにつれて少しずつ明らかになっていくことになります。
 貸出の対価である、人の涙が凝って生まれる不思議な結晶・猫想石を集めていること。その猫想石とは対照的に人の心の歪みが生み出す極界石を集める、彼とは同業者の猫・秘色の存在。そしてその秘色が響銅のことを、「先生」を隠したと恨んでいること……

 基本的には一話完結のエピソード故に、大きく動き出すのは物語終盤なのですが、そこで語られる響銅と秘色、そして「先生」の真実も、これまでに語られてきた物語同様、人と猫の関わりを、どこかもの悲しく、そしてどこまでも暖かく描くという点では、全く変わることはないのです。


 本作のタイトルである『響銅猫見聞録』。これは、第1話に登場した行成先生が、響銅の体験を小説としてまとめたそのタイトル――すなわち本作イコールその小説という趣向――なのですが、結末に至り、そこにもう一つの意味があったことに気付かされるのもまた、唸らされるほかありません。

 単行本全2巻と決して長い物語ではありませんが、端正な人と猫のファンタジーが幾つも集められた本作。本作自体がまるで猫想石の結晶のような――というのはいささかセンチメンタルな表現かもしれませんが、美しい物語であることは、間違いないのであります。


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