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2019.03.18

操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その一) 谷津矢車・神家正成


 歴史時代小説界で気を吐く実力派集団・操觚の会。本書『伝奇無双 「秘宝」』は、その操觚の会によるオリジナルアンソロジーであります。もちろん、「伝奇」「秘宝」とくればこのブログが黙っていられるわけがなく、掲載作品全九作を、一つずつ紹介させていただく次第です。

『ソハヤの記憶』(谷津矢車)
 源平の合戦から十年後、ある理由から妖を討つ力を持つ霊刀を打つため、回国修行を続ける青年・典太。しかし旅の途中に彼が訪れた村は、霊刀によって滅ぼされかかっていたのでした。
 かつて坂上田村麻呂が佩いていた霊刀・騒早(ソハヤノツルギ)――ひとりでに飛び回り、敵を斬り殺すというこの剣の封印を村の領主が解いたために、騒早は次々と村人を襲い、その命を奪っているというのであります。

 そこで出会った妖を視る力と霊刀を持つ武士・平佐兵衛とともに、騒早と対決することになった典太。しかし想像を遙かに超えて強大な騒早を前に、兵衛までもが敗れ……

 アンソロジーの一番手は、本書で最年少にして、次々と意欲作を繰り出す作者が描く、霊刀を巡る物語。刀で典太といえば――そう、あの刀匠の若き日の物語であります。
 元々伝奇的要素が少なくない作品を描いてきた作者ですが、人ならざる魔、そしてその存在がある程度当たり前に受け入れられる時代を描くのはおそらくこれが初めて。それだけにどのような物語を描くのか、興味津々でしたが――妖刀に挑むのが、決してヒーロー然とした人物ではないのが、作者らしい面白さであります。

 妖の存在に触れたために運命を狂わせ、そしてそのことに強い怨念を抱える典太。その彼の屈託が、刀、そして刀造りを通じて浮き彫りになっていく様は、デビュー作以来、己の技を武器に世の中に挑んでいくアーティストたちの姿を幾度となく描いてきた作者ならでは――というのは牽強付会に過ぎるでしょうか。


『朝鮮の秘宝』(神家正成)
 まだミステリ作家としての印象が強いものの、しかし操觚の会に参加していることからわかるとおり、歴史時代小説への志向も強い作者。本作はその作者が強く感心を寄せる題材の一つである、朝鮮を扱った意外な秘宝物語であります。

 時は将軍吉宗の時代。病気の息子を救うため、時には後ろ暗い仕事にまで手を染めていた亀尾忠三郎は、名古屋の地に泊まる朝鮮通信使の一行から「秘宝」を奪うという、危険な仕事を引き受けることになります。

 同じように集められた仲間たちとともに通信師の宿に忍び込み、首尾良く秘宝の入った長持を奪った忠三郎。しかし彼はその場に居合わせた童に足を掴まれ、そのまま隠れ家まで連れ帰る羽目になります。
 しかしようやく隠れ家に帰ったと思えば、突然その場を襲撃する黒装束の一団。次々と仲間が倒されていく上に朝鮮の剣士までもが乱入し、大混乱となった中を何とか逃れた忠三郎は、一味の一人であった狐目の男とともに、奪われた秘宝と童を追うのですが……

 金のために盗賊に加わった男――という主人公の設定もなかなかユニークな本作ですが、物語はその先二転三転、次々と思わぬ事態が発生し、息もつかせぬ勢いで展開していくことになります。
 問題の秘宝の正体も二段構えで面白いのですが――何よりも驚かされたのは、ある登場人物の正体。ここでこの人物を持ってくるか、と驚かされると同時に、それが秘宝の正体と結びついた末に生まれる、爽やかな結末が印象に残ります。
(印象に残るといえば、大混戦の中で焙烙玉が炸裂した場面のリアリティは、これは作者ならではないでしょうか)


 次回に続きます。

『伝奇無双 「秘宝」』(戯作舎文庫) Amazon
伝奇無双「秘宝」 操觚の会書き下ろしアンソロジー (戯作舎文庫)


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