« 操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その二) 早見俊・秋山香乃・新美健 | トップページ | 操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その四) 朝松健 »

2019.03.20

操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その三) 誉田龍一・鈴木英治・芦辺拓


 操觚の会のアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』の紹介もいよいよ佳境の第三回であります。

『三十九里を突っ走れ!』(誉田龍一)
 操觚の会の切り込み隊長というべき存在であり、イベントでは名司会ぶりを発揮する作者の作品は、戦国時代を舞台としたロードノベル。人並み優れた体格と武術の腕を持ち、数々の手柄を挙げながらも、禄高が引き合わないと主家を飛び出して文無し状態の男・与吉が、秘宝を巡る冒険を繰り広げます。

 茶店で破落戸どもを叩きのめしたのがきっかけで、源左と名乗る男に声をかけられた与吉。越前と近江の国境から、信長と対立する石山本願寺まで、あるものを輸送する源左たちの護衛をして欲しいという依頼を、与吉は二つ返事で引き受けるのでした。
 かくて道中三十九里を往くこととなった与吉と源左一行。しかし秘宝を巡り、山賊が、織田方の侍が、そして妖魔が彼らの行く先々に現れて……

 と、破天荒なタフガイ・与吉の暴れっぷりが痛快な本作。源左との凸凹コンビぶりもなかなか楽しいのですが、結末に描かれるある事実には、なるほど、と納得であります。
 その一方で少々残念なのは、妖魔たちが今一つ個性に乏しく、「強い敵」以上の存在となっていないことでしょうか。秘宝の正体とも絡めて、もう少しインパクトを持たせても良かったのでは――という印象はあります。


『享禄三年の異常気象』(鈴木英治)
 季節はずれの雪や花どころか、魚が降るなどと異様な天候が相次ぐ享禄三年の駿河国。そこで侍に出世することを夢見て戦に出ていた工藤平一郎は、空から何百枚もの明銭が降ってきたという噂を耳にするのでした。
 銭の雨の下にいたのは、自分と同姓同名の相手を討ったばかりの侍だったというのですが――その直後の戦で兜首を取った平一郎が知ったのは、何とその相手が自分と同姓同名であったという事実でした。

 そして次の戦でも、そのまた次の戦でも、自分と同姓同名の相手と戦う羽目になる平一郎。いつか自分の頭上にも銭の雨が降るのではないかと恐れる平一郎ですが……

 文庫書き下ろし時代小説家として既に大ベテランの域に入る作者ですが、江戸ものだけでなく、戦国ものも得意とするところであります。というより作者のデビュー作は、本作と同じ駿河国は今川家を舞台とする伝奇色濃厚なミステリ『義元謀殺』なのですが――しかしそんな作者の作品の中でも、本作ほど奇妙な作品はないでしょう。
 いかにも作者らしい、どこかのんびりとしたムードの文章で描かれる、何とも理不尽極まりない現象。その先に待つ、あまりにも身も蓋もない真実には、ただただ天を仰ぐほかありません。


『ちせが眼鏡をかけた由来 江戸少女奇譚の内』(芦辺拓)
 奇想に満ちた本格ミステリで大活躍する一方で、かねてより伝奇チャンバラへの愛を語ってやまなかった作者。当然本作は――と思いきや、こちらで来ましたか、と言いたくなる作者の趣味の幅広さを窺わせる一編であります。

 九戸南武家に仕える学者・江波戸鳩里斎の娘・ちせ。学問に熱中するあまり近視気味の彼女は、捻挫した父に代わり、自領内に秘蔵された古の財宝を捜し出せとの藩主からの命に挑むことになります。
 財宝が眠るという落人村に向かったちせ。しかしそこでは読本を手にした人々が宝を探し回り、さらに読本を題材にした芝居の一座まで出ているではありませんか。そんな中、父が殿から託された金属板に記された十六の文字の謎を解き明かしたちせですが……

 というわけで、少女探偵もの、少女活劇に対しても強い興味を示す作者が、江戸時代を舞台にそれを描いてみせた本作。実は本書でも数は多くない「宝探し」という王道の題材を用いつつ、そこに暗号ミステリの要素を投入してみせるのも、また作者らしいところであります。
 しかし本作の魅力は、彼女を非力な少女として侮る大の男どもに対して、知恵と勇気で互角以上に渡り合うちせの姿であります。副題を見れば、シリーズ化への意欲が窺われる本作。ぜひ、江戸の眼鏡っ娘少女探偵の活躍を見てみたいものです。


 長くなりましたが、次回で紹介は最終回であります。


『伝奇無双 「秘宝」』(戯作舎文庫) Amazon
伝奇無双「秘宝」 操觚の会書き下ろしアンソロジー (戯作舎文庫)


関連記事
 『幕末 暗殺!』(その一) 幕末の始まり、暗殺の始まり
 『幕末 暗殺!』(その二) 暗殺者たちそれぞれの肖像
 『幕末 暗殺!』(その三) 暗殺を描き、その先にある現在を問う

|

« 操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その二) 早見俊・秋山香乃・新美健 | トップページ | 操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その四) 朝松健 »

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その三) 誉田龍一・鈴木英治・芦辺拓:

« 操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その二) 早見俊・秋山香乃・新美健 | トップページ | 操觚の会書き下ろしアンソロジー『伝奇無双 「秘宝」』(その四) 朝松健 »