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2019.03.29

東村アキコ『雪花の虎』第7巻 終結、第一次川中島の戦 そして新たなイケメン四人衆


 女長尾景虎(上杉謙信)伝『雪花の虎』第7巻は、いよいよ川中島の戦がスタート――しかしなかなか直接対決に至らぬ中で、景虎は自分なりに川中島で戦う理由を見いだすことになります。そして物語は新たなる舞台へ……

 最愛の兄・晴景を失いながらも、長尾家を背負って戦い続ける景虎。その姿は、混沌の戦国の中で敗軍の将たちを惹きつけていくことになります。その一人、村上義清の求めに応じて、景虎はついに武田晴信と川中島で対峙することとなります。

 というわけで、謙信と信玄といえばこの戦い、というべき川中島。しかしこの巻で描かれるのは、12年にわたって都合5回繰り広げられた戦いの、最初の1回であります。
 この戦いにおいては晴信は景虎側の動きを窺い、積極的には動かぬ籠城戦を選択、結果として引き分けとなったのですが――本作はその背後に、一つのドラマを描くことになります。

 景虎が自分に面影の似た青年・シロを影武者に立て、密かに兵を二手に分けた奇襲をかけんとすれば、晴信はこれを見抜いて牽制を仕掛ける――そんな戦いの末に、数週間に及ぶ膠着状態に陥った戦線。もちろん合戦ではこうした状況も珍しくありませんが――しかしそれが景虎にダメージを与えます。
 そう、若い女性であれば避けられない現象でもって。

 月に一度の体調の不良に苦しみ、シロを残して戦場を離れることとなった景虎。その途中、弱った彼女が出会ったのは、川中島近くの善光寺の門前の薬屋の娘でありました。
 彼女から、善光寺が女性のための寺、この時代には珍しい女性の参拝を拒まぬ寺であったことを知った景虎は、一つの決意を固めることになります。

 女性のための寺であれば、当然、その門前には女性が集まることになる。いわば女性のための一種のアジールである善光寺が武田方の手に落ちれば、そのアジールは喪われることでしょう。
 それを守るため、景虎は戦うことを決意したのであります。

 もちろんこれは本作ならではの一つの極端な見方ではあります(もっとも、川中島が善光寺を巡る戦いでもあったというのは、本作のみの視点ではありませんが)。しかし本作であれば、本作の景虎であれば、こう決意しなければおかしい――それもまた、間違いのないことでしょう。
 自分自身のために戦う理由を見つけた景虎の川中島は、これからも続いていくのであります。
(ちなみに、ここでシロが思わぬ人物の前身であることが語られるのですが、これはさすがに吃驚)


 しかし、ここで景虎の物語は、新たな舞台に移ることになります。その舞台とは京都――位階の叙任御礼のために上洛することになった彼女の姿を描く、京都上洛編がここから始まることになります。
 そしてそこに登場するのは新たなイケメン――それも四人! 足利義藤(義輝)、近衛晴嗣(前久)、細川藤孝、進士藤延――都を追われ、朽木谷に暮らす将軍と、彼と志を一にする貴族、そして将軍の忠実な家臣であります。

 体育会系の義藤、いかにも育ちの良さげな晴嗣、優美な藤孝に忠実かつ温厚な藤延。いやはや、それぞれにタイプの異なる四人の美形の設定には驚いた――というのはさておき、後世から見ればとんでもないメンバーですが、しかし彼らがここに存在したことも、景虎と交誼を結ぶこともまた史実であります。

 景虎というと、越後のみが活動範囲であったような印象がありますが、それを巧みにひっくり返した上に、「中央」の動きと絡めてくる――それも実に本作らしい形で――とは、着眼点の面白さに唸らされます。


 そしてこの四人の中で、もっとも虎と縁を結ぶことになりそうな、意味ありげな描写が為されているのが進士藤延であります。

 正直に申し上げれば、この人物のことはこれまで知らなかったのですが――作中で義藤たちのために料理を作る描写が多かったのも道理、進士家は、代々将軍の食膳を司る家とのこと。
 なるほどそれで――と納得しつつ、これも作中でちらりと描かれたように、彼は決してただの料理人ではない、歴とした武士でもあります。

 藤延については、とんでもない奇説があるようですがそれは今はさておき、この先、この一風変わった武士が景虎といかに絡むことになるのか――京都上洛編、早くも気になる展開であります。


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