« 東村アキコ『雪花の虎』第7巻 終結、第一次川中島の戦 そして新たなイケメン四人衆 | トップページ | 『決戦! 賤ヶ岳』(その二) 八番目の七本槍の姿 »

2019.03.30

『決戦! 賤ヶ岳』(その一) 賤ヶ岳の戦の、その先の屈託


 おなじみ『決戦!』シリーズの第7弾は『決戦! 賤ヶ岳』。ある合戦に参陣した武将たちを、各作家が一人ずつ描く本シリーズですが、今回は少々他とは異なる趣向があります。それは本書に収録されている全7作品が、敵味方それぞれの武将ではなく、賤ヶ岳七本槍たちを主人公としていることであります。

 信長の後継者を巡り、羽柴秀吉軍と柴田勝家軍が激突し、結果として秀吉の天下を招くこととなった賤ヶ岳の戦。ある意味これも天下分け目の戦いではありますが、しかし秀吉と勝家が直接対決したわけではなく、規模も(シリーズの他の戦に比べれば)大きくない一戦であります。
 はっきり言えばスターが少ない賤ヶ岳の戦を、このシリーズでいかに描くかと思えば、それが冒頭に述べたとおり、いわゆる賤ヶ岳の七本槍――この戦で奮闘した秀吉麾下の加藤清正・糟屋武則・脇坂安治・片桐且元・福島正則・平野長泰・加藤嘉明の七人をそれぞれ主人公にして描くというのは、これは実に面白い趣向でしょう。

 といっても七本槍のうち、(武将として)後世によく知られるのは清正・正則・嘉明くらい。その辺りをどう描くのか――と思えば、これもまた、それぞれに趣向を凝らした内容となっているのが実に面白い。以下、本書の中で特に印象に残った作品を紹介しましょう。


『糟屋助右衛門の武功』(簑輪諒):糟屋武則
 別所家の家臣であった兄と袂を分かつ形で織田家に仕えたものの、周囲からは外様で寝返りものと陰口を叩かれてきた助右衛門(武則)。そんな彼にとって武功を挙げるまたとない機会が、賤ヶ岳の戦でありました。
 しかし七本槍に数えられたものの、逆に正則や清正に比べれて自分の限界が見えてしまった助右衛門は、武将としての立身をあきらめてしまうのですが……

 上に述べたとおり、同じ七本槍といっても、その内実は、そしてその後の境遇も大きく異なる彼ら七人。本書では、賤ヶ岳の戦そのものだけでなく、その後の彼らの姿を――その抱えた屈託を描く作品が少なくないのですが、本作はその中でも最も心に残った作品であります。

 成果さえ挙げれば未来が開けると思い詰めていたものが、いざ挙げてみればその行き着く先が見えてしまった――戦国武将ならずとも何とも身につまされるシチュエーションですが、本作はそこで終わりません。
 本作はそんないわば等身大の悩みを抱えた武則の姿を描きつつも、しかしそこでは終わりません。再び魂を燃やし、再起してみせる姿を力強く描いてみせることで――たとえその結果がどうであろうとも――大きな感動を呼ぶのであります。


『しつこい男』(吉川永青):脇坂安治
 その空気を読まないしつこさと、それと裏腹の微妙な実力のために、かねてより朋輩から、いや時には主君の秀吉からも嘲られてきた安治。
 賤ヶ岳七本槍と呼ばれたものの、その後の致命的な失策で秀吉に勘気を被り、いてもいなくてもいい男とまで秀吉に言われてしまった安治は、腹を括って伊賀上野城を寡兵で攻めるのですが……

 関ヶ原で西軍につきながらも、戦場で小早川ともども寝返って友軍を攻めたことで歴史に名を残る安治。そんな何ともしまらない彼を、さらにしまらない姿で描いてしまうのですから、本作は容赦がありません。
 こういう○○人衆の中ではありがちな「数合わせ」呼ばわりによって、ついに堪忍袋の緒を切らした安治。その行き着く先は――いやはや、これはこれで一個の武士と言うべきでしょうか、結末が妙なカタルシスを呼ぶ一編であります。
(そして、先に紹介した『糟屋助右衛門の武功』の結末とも奇妙な対応を見せるのが何とも……)


 思ったよりも長くなったため、次回に続きます。


『決戦! 賤ヶ岳』(天野純希ほか 講談社) Amazon
決戦!賤ヶ岳


関連記事
 『決戦! 関ヶ原』(その一) 豪華なるアンソロジー、開戦
 『決戦! 関ヶ原』(その二) 勝者と敗者の間に
 『決戦! 関ヶ原』(その三) 関ヶ原という多様性
 『決戦! 大坂城』(その一) 豪華競作アンソロジー再び
 『決戦! 大坂城』(その二) 「らしさ」横溢の名品たち
 『決戦! 大坂城』(その三) 中心の見えぬ戦いの果てに
 『決戦! 本能寺』(その一) 武田の心と織田の血を繋ぐ者
 『決戦! 本能寺』(その二) 死線に燃え尽きた者と復讐の情にのたうつ者
 『決戦! 本能寺』(その三) 平和と文化を愛する者と戦いと争乱を好む者
 『決戦! 川中島』(その一) 決戦の場で「戦う者」たち
 『決戦! 川中島』(その二) 奇想と戦いの果てに待つもの
 『決戦! 桶狭間』(その一)
 『決戦! 桶狭間』(その二)
 『決戦! 関ヶ原』(その一) 豪華なるアンソロジー、開戦
 『決戦! 関ヶ原』(その二) 勝者と敗者の間に
 『決戦! 関ヶ原』(その三) 関ヶ原という多様性
 『決戦! 設楽原 武田軍vs織田・徳川軍』(その一)
 『決戦! 設楽原 武田軍vs織田・徳川軍』(その二)
 『決戦! 設楽原 武田軍vs織田・徳川軍』(その三)

 『決戦! 忠臣蔵』(その一)
 『決戦! 忠臣蔵』(その二)
 『決戦! 新選組』(その一)
 『決戦! 新選組』(その二)

|

« 東村アキコ『雪花の虎』第7巻 終結、第一次川中島の戦 そして新たなイケメン四人衆 | トップページ | 『決戦! 賤ヶ岳』(その二) 八番目の七本槍の姿 »