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2019.03.28

『どろろ』 第十二話「ばんもんの巻・下」

 百鬼丸を鬼子と呼び、矢を射かける景光。その場を逃れた百鬼丸は、景光の屋敷で綾の方と多宝丸に対面、景光から真実を聞かされる。一方、朝倉に捕らえられたどろろは、助けを呼ぶために脱走するも一足遅く、ばんもんで処刑が始まってしまう。そして醍醐と朝倉の戦端が開かれる中、九尾が再び現れる……

 前回、ばんもんの前で九尾と戦っていたところに、手勢を率いて現れた醍醐景光に矢を射かけられ、九尾を逃がしてしまった百鬼丸。もちろん雑兵の矢にやられる百鬼丸ではなく、躱して景光に肉薄するのですが――そこで景光から「生まれ損ないの鬼子」と呼ばれることになります。その場を逃れた百鬼丸ですが、景光の態度と言葉が気にかかった彼は(耳が聞こえるようになったばかりに……)、景光の屋敷に向かうのでした。
 折しもそこでは、多宝丸が綾の方を問いつめている最中。父と母の所行を責める多宝丸ですが、しかしそこに現れた景光は、百鬼丸の犠牲がなければ、今も醍醐領は飢饉や戦乱で地獄の有様だったと語ります。そして己の善良さのために民を地獄に落とすのかと問う景光に、多宝丸も黙るしかありません。そしてその有様を目撃し、己の出自を知った百鬼丸は、再び景光に矢をもて追われることに……

 一方、前回助六とともに朝倉の兵に捕らえられてしまったどろろは、岩牢に入れられ、他の人々とともに見せしめに処刑の時を待つ状態。しかし捕虜たちがあきらめに沈む中、ただ一人あきらめないのはどろろ。壁の上に穴が開いているのを知ったどろろは、百鬼丸の助けを呼ぶため、助六たちの手を借りつつ、そこから脱出するのでした。そして何とか彷徨う百鬼丸と再会したどろろですが――時既に遅く、朝倉の兵によってばんもんに括り付けられた助六たちに、無数の矢が襲いかかるのでした。
 時同じくしてばんもんに軍勢を率いて現れた景光。朝倉と醍醐がまさに戦端を開かんとした時――そこに九尾が再び現れ、朝倉方に襲いかかります。その九尾を追う百鬼丸ですが――その前に現れたのは、多宝丸であります。悩み苦しみ、地獄堂の鬼神たちをも目の当たりにした末、兄・百鬼丸こそがこの国にとっては鬼神と断じて斬ると決めた多宝丸(しかしここで大秘事ともいうべき景光と鬼神のと取引のことを、兵たちの前でデカい声で話してよいものか……)。そしてその弟と百鬼丸が激しく刃を交わす中、戻ってきた九尾がどろろに襲いかかります。助けを求めるどろろの声に、百鬼丸は多宝丸の右目に切りつけ、そのままの勢いで九尾を叩き斬る!

 と、静けさが戻ったその場に現れたのは、観音像を手にした綾の方であります。百鬼丸に涙ながらに詫びながらも、自分は百鬼丸を救えない、国のために犠牲になってくれと叫ぶ綾の方。彼女は、しかしせめて自分が犠牲になると、己の胸に懐剣を突き立てるのでした。そしてそんな人々の激情に応えるように、百鬼丸に斬られた九尾が吸い込まれたばんもんは崩壊――多宝丸と綾の方を連れて景光は退き、その場に静けさが戻ります。
 奇跡的に矢が逸れて助かった助六も、村を焼かれて死んだかと思われた母と再会。助六を置いて再びただ二人、醍醐領を離れる百鬼丸とどろろであります。


 物語の折り返し地点にふさわしく、何とも圧巻の人間ドラマが繰り広げられた今回。このアニメ版においては、どろろが鬼神を倒し、自分の体を取り戻すたびに、それを贄にして醍醐領に与えられていた恩恵が奪われていく――すなわち、醍醐の人々が苦しむことになるという描写が幾度も描かれてきましたが、今回ついに繁栄と犠牲の関係が、正面から取り上げられることになります。

 ここで描かれる、多くの人々の繁栄のために、一人の子供に理不尽かつ無惨な犠牲を強いる(そしてそれがなければ繁栄は失われてしまう)という構図には、アーシュラ・K・ル・グインの『オメラスから歩み去る人々』を連想する方も少なくないでしょう。その意味では多宝丸も綾の方も、歩み去れなかった人々というべきなのですが――しかし、そこに単なるエゴや弱さだけでなく、人々の命を預かる施政者としての悩みを重ねてみせるのが、本作ならではの捻りと感じます。
 そしてそんな悩みすら乗り越えたかに見える景光の振りかざすある種の正論を、百鬼丸は乗り越えることができるのか……? その答えはもちろんすぐに出るはずもありません。我々に今できるのは、それを理不尽と断じ、百鬼丸のために本気で怒るどろろの姿に強く共感することのみかもしれません。

 そして原作と異なり、ばんもんで生き残った多宝丸(しかし百鬼丸との戦いで片目を失ったことは、ある意味鬼神の贄になったということでは……)、そして自ら死を選ぼうとした綾の方の運命も含め、後半の展開が、そして物語の行き着く先が、大いに気になるところであります。


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