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2019.04.04

重野なおき『信長の忍び』第15巻 「負け」続きの信長に迫る者


 『信長の忍び』第15巻は、第三次包囲網に参加した諸勢力との戦いの真っ最中の信長を描く内容。当然ながら千鳥(と助蔵)もあちこちに飛び回ることになりますが――何と今回は戦国の超大物との出会いまで!?

 元将軍・足利義昭の暗躍(手紙攻勢)によって、本願寺・毛利・上杉といった、いまだ信長に屈せぬ強豪たちによって形成された信長包囲網。何とかこれを突き崩そうとする信長ですが、局地戦では分が悪く、苦戦や敗戦が続くことになります。
 その間も各地で発生する戦いの火種――というわけで、この巻では信長があまり動かない分、千鳥たちが各地に奔走し、戦いを見届けることになります(という形で、信長が直接参加していない戦いを描いてみせるのは、相変わらず巧みだと感心させられます)。

 そしてこの巻でその第一弾となるのは、北畠具教――かつて信長と戦い、そして千鳥との一騎打ちを繰り広げた剣豪大名であります。信長に敗れた後、信長の次男・信雄を養子にした具教ですが、包囲網に加わったことで、ついに粛正されることに……
 が、ここで手を下したのは信長ではありません。その信長に命じられた信雄なのですが――その信雄がどのような人物であるか、ご存じの方も多いでしょう。

 そう、信長から「うつけ」の部分だけを継いだような人物――一方的に歴史上の人物を下げることは比較的少ない本作において、容赦なくボンクラとして描かれているのですから、その程度は推して測るべし、でしょう。
 そのようなボンクラを養子とし、そして攻め滅ぼされる具教の無念たるやいかほどのものか――最後の望みすら叶えられない最期には、酷く苦いものが残ります。

 そして主人公が信長に命じられるまま、そのボンクラに手を貸した(わりに綺麗事を言っていること)ことにも釈然としないものが残ります。この辺りは、その先の歴史がある種の皮肉となっているだけに、それをどのように描くか、気になるところですが……


 それはまだ先の話として、次いで信長が対峙するのは、本願寺攻防戦で織田軍を最も苦しめた男・雑賀孫市率いる雑賀衆。
 傭兵として乱世が続くことを望む孫市と、乱世を終わらせようとする信長――現実に信長がそのような人物であったかは別として、本作においてはある意味好一対の男であります。

 そして信長に千鳥(と助蔵)がいるとすれば、孫市にも――というべき凄腕の少女ガンマン・小雀と蛍が登場。
 織田軍と雑賀軍の激突の背後で、この両者の激突が描かれるのもまた面白いのですが――そのある意味局地戦を描きつつ、この戦いの複雑な決着を解説してみせるのは、これは本作ならではの面白さでしょう。

 そして解説といえば、この巻を読んで改めて理解させられたのは、この時期の信長が苦戦続きであったこと。前の巻で描かれた丹波攻略失敗、天王寺の苦戦、木津川口の敗戦――そしてこの雑賀攻め。
 決して自領を失ったわけではなく、それだけに負けという印象は薄かったのですが、なるほど攻めていった先で撃退されるのは、確かに「負け」と言うべきでしょう。


 そしてこの巻の終盤では、その「負け」続けの信長に迫る男が、それも二人描かれることになります。

 その一人が上杉謙信。言うまでもなく戦国最強の大名の一人でありながら、これまで本作においてはほとんど全く出番のなかった人物が、ついに描かれることになるのですが――その登場の仕方がとんでもない。
 「かなり信憑性が低い」「本当に無茶苦茶」と作中でも言われるほどの、ある逸話を踏まえて描かれる謙信の姿は、やはり実に本作らしいデフォルメぶりなのですが――しかし恐るべき強敵であることは間違いありません。

 そしてもう一人は――それはここではその名を伏せますが、下克上・謀叛を繰り返し、ある意味戦国の申し子と言うべき存在ながら、ここのところ一武将に甘んじてきた人物。
 千鳥とも縁浅からぬキャラクターとして、本作ではどちらかといえばコミカルに描かれていたこの人物がついに――というのは、これまで本作を読んできた身には、何とも感慨深いものがあります。


 「負け」続きの信長に迫る二人――何とも気になる引きで、次の巻に続くことになります。


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