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2019.04.09

小松エメル『一鬼夜行 つくも神会議』(その一) 交錯する妖情と人情


 昨年『鬼の嫁取り』によってめでたく第二部が完結した『一鬼夜行』シリーズ。その番外編ともいうべき一冊が本書『つくも神会議』――主人公たる喜蔵と小春の出番は少な目に、脇役である妖たちを中心とした短編が6話収録された短編集であります。以下、一作品ずつご紹介いたしましょう。

『付喪神会議』
 実質的に本書の表題作である本作の主人公は、喜蔵が営む古道具屋・荻の屋に住みついた付喪神たち。硯の精、前差櫛姫、小太鼓太郎、堂々薬缶といったお馴染みの面々が、思いも寄らぬ対決に望むことになります。

 浅草界隈の付喪神たちが集まってはああだこうだと騒ぐ付喪神会議。今夜も荻の屋で喜蔵の目を盗んで開催されていた会議に、同じ町内の骨董屋・今屋の付喪神五妖が現れたことから、事態はおかしな方向に転がっていくことになります。
 かねてより喜蔵を敵視する店主同様、何かと衝突してきた骨董品の付喪神たちの上から目線に、ついに怒りを爆発させた荻の屋の付喪神。彼らは、どちらが上か決めるため五対五の対決を挑むことになったのであります。

 かくてその勝負に巻き込まれる形となった喜蔵は、審判役として大家のもとに、正体を隠した付喪神たち十妖を持ち込むと、この中から五品を選んで欲しいと頼むのですが……

 シリーズのほとんどの作品の冒頭部分、荻の屋の日常を描くくだりに登場しては賑やかに騒ぎ回り、喜蔵や小春に一喝されるのがお馴染みの付喪神たち。
 シリーズに欠かせない名脇役たちですが、それだけに物語の中心になかなかなれない彼らが今回は大暴れ――と言いたいところですが、物語は思わぬ方向に転がっていくことになります。そこで描かれる意外な人情、いや妖情も楽しい一編であります。


『かりそめの家』
 過去にタイムスリップしてしまった多聞とできぼしが奇怪な箱庭に引きずり込まれる本作は、以前アンソロジー『となりのもののけさん』に収録された際に紹介しておりますので、そちらをご覧いただければと思います。


『山笑う』
 幼い頃に天狗に拾われ、その天狗を祖父と慕って成長した少年・つむじ。しかし祖父は山を去り、代わって現れたのは、祖父から山を託されたという天狗・花信とその配下たちでありました。
 つむじに甘い配下たちとは対照的に冷たい態度を崩さず、山を下りて人間の世界に戻れと告げる花信。何としても天狗になると言い張るつむじですが……

 シリーズ当初から小春の宿敵として登場し、特に前々作『鬼姫と流れる星々』では深雪と絡んで大きな役割を果たした天狗・花信。
 そこでの言動を見ればわかるように、普段小春を甘いとか言っているわりには結構情が深い花信ですが、さて、天狗になりたいという風変わりな人間の少年を前に何を想うか?

 情に人も妖もない――いやそれどころか、人よりも妖の方がよほど情に厚かったりするのは、本シリーズでしばしば描かれてきたところであります。そんな人と妖の交流を描いた本作は、やはり本シリーズの一作と呼ぶに相応しい物語です。


『緑の手』
 水の世界を支配する大妖怪・須万の僕として、相手の魂を奪うその手の力をもって、妖たちの魂を集めていた妖・岬。ある日、河童の弥々子に出会った彼は、彼女に強く惹かれ、その魂を狙いつつも、彼女にまとわりついて暮らすようになります。
 そんな中、海に現れた伝説の妖怪・アマビエ。須万からアマビエの魂を奪うよう命じられた岬は、妖たちが繰り広げるアマビエ争奪戦の中に潜り込むのですが……

 『鬼の嫁取り』の山場の一つであったアマビエ争奪戦。水妖たちが群れをなしてアマビエを追い、妖神と戦う中に、本作の主人公・この岬も登場したのですが――そこでは脇役の一人という印象でしかなかった彼が抱えた、複雑怪奇な事情が本作では描かれます。
 複雑な(本当に複雑な)出生により、須万に使われ、魂を集めてきた岬。陰の中で暮らす妖たちの中でも、一際濃い陰の中に在る彼にとって、弥々子が、アマビエがどのように映ったか――輝く者たちを前にした日陰者の屈託が、痛いほど刺さります。

 一つの巨大な戦いの陰で繰り広げられた、小さなしかし激しい戦いの結果、彼が得たものは何であったか――自分だけの妖生に一歩を踏み出した岬の姿が印象に残ります。


 長くなりましたので次回に続きます。


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