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2019.04.15

さいとうちほ『輝夜伝』第1巻 ケレン味と意外性に満ちた竹取物語異聞


 日本最古の物語として誰もが知る竹取物語。その知名度と内容のユニークさから様々な形で描き直され、語り継がれてきたその物語を、新たにアレンジしてみせた漫画が本作――『輝夜伝』であります。正体不明の美女と十五夜の晩の惨劇の謎を巡り、滝口の武者に潜り込んだ少女の冒険が始まります。

 竹取の翁に養われる絶世の美女・かぐや姫の噂で持ちきりの京。そこで帝をお守りする滝口の武者のもとに、自分も加わりたいと現れたのは、月詠(つくよみ)と名乗る若者でありました。
 長の命によって月詠を預かることになった滝口の一人・大神。しかし彼は、月詠が男装の少女であったことを知り、大いに戸惑うことになります。

 数年前に内裏で多数の滝口が謎の死を遂げたという「血の十五夜」事件。その場に居合わせ、そこで兄を喪ったという月詠は、事件の真相を知るため、滝口に入り込もうとしていたのであります。
 そして実はその事件の犯人の疑いをかけられ失脚した父を持つ大神は、月詠に協力して事件の真相を探ることになるのでした。

 そんな中、かぐや姫を内裏に召し出すと言い出した帝。姫を迎えに行った月詠らは、かぐや姫が人にあらざる異能を持つことを知ることになります。そして姫と月詠、偶然二人が出会った時、意外な現象が起きるのでありました。
 果たしてかぐや姫とは何者なのか。十五夜に外に出ることと禁じられた月詠の秘密とは。帝をも動かす怪人・治天の君と、彼に仕える仮面の西面の武士・梟の真意とは……


 「血の十五夜」というネーミング(事件が起きた建物が「黒の陣」と呼ばれているのも素晴らしい)の時点で大いに刺さる本作。
 スタイル的には平安ものではあまり珍しくない異性装もの(というより、その異性装ものの元祖ともいうべき物語を題材とした『とりかえ・ばや』が作者の前作に当たるの)ですが、しかしこのネーミングをはじめとして、随所に光る独自性が、本作に唯一無二の印象を与えます。

 そもそもこの事件、ある十五夜の晩に数多くの滝口が亡くなったということ以外、その原因や犯人を含め、今のところ全ては謎。それ以前に、宮中で起きたその事件に、何故月詠とその兄が巻き込まれたか、そこからが謎なのであります。
 そんな事件が、本作の題材であるかぐや姫とどう結びつくのか――月以外共通項がないように思えるだけに、大いに気になるではありませんか。

 そして「月」といえば、それを名に冠する月詠も、主人公ながら謎だらけの少女。すぐ上で述べた事件にまつわる謎はもちろんのこと、それにも繋がる記憶の欠落や、十五夜を恐れること、かぐや姫と出会った時の異変など、彼女自身が謎の固まりであります。
 そんな複雑な属性のわりに、本人は至ってピュアで、大神にはえらく素直な顔を見せるのがなかなか可愛く、彼女が女だと知らない周囲の滝口連中のリアクションなどもなかなか愉快なのですが……


 何はともあれ、何から何まで謎の中という構造だけでも楽しいところに、刺さる用語やキャラ(明らかに月詠と因縁のありそうな梟なんて、目元だけ仮面の(たぶん)美形ですし)が次々と飛び出してくるのがたまらない『輝夜伝』。
 誰もが知る物語を題材としながらも、ここまでのものを描くことができる――ベテランならではのケレン味と意外性から目が離せない、そんな物語の開幕であります。


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