琥狗ハヤテ『ねこまた。』第5巻 町人と武士 異質な物語の中に浮かぶもの
家に憑く不思議な存在「ねこまた」と、そのねこまたに憑かれた(懐かれた?)仁兵衛親分の日常を描く四コマ漫画『ねこまた。』の第5巻であります。静かな日常を描く本作に血生臭い空気を持ち込む人斬り浪人・三好の存在を気にかける親分ですが、ついに三好の運命に大きな変転が……
「家」に必ず一匹憑いている、猫又ならぬねこまた。その一匹に憑かれている京の岡っ引き・仁兵衛親分は、その正義感と腕っ節から町の人々に慕われる好漢であります。
人には見えないねこまたたちと会話することから、「ささめ(つぶやき)」というありがたくない渾名を頂戴している仁兵衛ですが、肩の一匹、そして家の四匹のねこまたたちと暮らす仁兵衛は、それなりに彼らとの平穏な生活を楽しんでいて……
という、基本日常系(?)の四コマ漫画である本作。この巻でももちろんその流れは変わることなく、親分とねこまたたちの、何とものんびりとした、そして微笑ましい日常が描かれております。
しかし本作では同時に、1巻に数回、極めてシリアスな物語が短編形式で挿入されることになります。そして第3巻以来そのシリアスパートを担ってきたのが、京にやってきた朱鞘の浪人・三好なのであります。
その三度笠に白ねこまたが憑いているということもあり、仁兵衛にとっては何とも気になる人物である三好。賞金稼ぎという殺伐とした稼業の彼は、かつては某藩の歴とした侍であったことが、前の巻で描かれました。
御家騒動に巻き込まれ、主も家族も、全てを喪い、故郷を捨てた――その過去は知らないものの、大きな陰を背負っていることはいやでもわかる三好を、仁兵衛は治安維持を担う岡っ引きの役目以上に、気にかけるようになります。
そしてその彼の危惧が現実のものとなる日が、ついにこの巻で描かれることになります。それは桑名からやって来た男・木下――三好に対する討ち手の出現であります。
見かけはわんこ系で正直な人柄ながら、見えないはずのねこまたの存在を察知する力を持つ木下。そんな彼は、実は三好とは竹馬の友であり、同門の剣士であります。
そんな間柄でありながら、主家の命により、三好を斬らねばならぬ木下。仁兵衛は三好を救うため、何とか二人が対面するのを避けようとするのですが……
作中で登場する、桑名という地名と、前の巻で描かれた野村(そして藩主が定重)という名前からすると、ほぼ間違いなく、18世紀初頭に伊勢桑名藩で起きた御家騒動・野村騒動が題材となっているこのエピソード。
これまで史実との関係が匂わされることはほとんどなく、いつかどこかの物語として描かれてきた本作においては、かなり異質に感じられるところですが――それが逆に、強烈な印象を残します。
たとえねこまたという妙な因縁で結ばれ、互いに不思議な共感を抱きながらも、しかし片や浪人とはいえ武士、片や町人である岡っ引きである三好と仁兵衛。同じ町に暮らしながらも、しかし二人の属する世界は、その世界を動かす規は、あまりに異なるものであります。
どうにもできぬ世界の規を前に、仁兵衛は何を想うのか。そしてその規に縛られた末に、全く望ままに敵同士として対峙することを余儀なくされる三好と木下の運命は……
平和な世界に生きる我々にとってみれば異質でしかない、しかしそれでいて我々と同じ人間たちが演じる悲劇の姿は、仁兵衛そしてねこまたたちという存在を間に挟むことで、より鮮明に、我々の胸に突き刺さるのです。
(そしてその両者の間に立つ、立たざるを得ない、奉行所の寺島の旦那の存在感が、また実にいいのであります)
今回の三好のエピソードを通じて、これまで以上に「時代劇」を描いてくれた本作。しかしそこにあるものが、これまで本作が日常の中で描いてきたもの――この世に生きる者の生の姿と情の形と本質的に変わらぬものであることは言うまでもありません。
己の「家」を喪い、そして図らずも己が白ねこまたの「家」となってさすらい続けた三好。その彼が向かう先は――やはりこのエピソードは、本作だからこそ描くことができた物語と評すべきでしょう。
哀しくも心に沁みる物語であります。
(と、一瞬親分についにロマンスが!? と思われた展開もあったのに、完全に頭からすっ飛んだこの巻であります)
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