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2019.04.03

吉川景都『鬼を飼う』第5巻 奇獣争奪戦の中の彼の血の意味


 昭和初期を舞台に、奇妙な姿と奇怪な能力を持つ奇獣たちを巡る物語『鬼を飼う』も巻を重ねて第5巻。奇獣を惹きつける血の持ち主である帝大生・鷹名をはじめとする人々を巻き込んで展開する事件は、いよいよ混沌とした様相を呈することになります。

 奇獣商の男・四王天と、彼が連れる少女姿の奇獣・アリスに出会ったことで、にわかに奇獣絡みの事件に巻き込まれるようになった鷹名。
 しかし身辺が騒然となってきたのは四王天も同じ――明らかに人間の手による奇獣騒動の続発に何者かの影を感じた彼は、自分をマークしてきた特高の特殊部隊と手を組むことになります。

 そして事態に対処するには手数が必要と考えた四王天は、密かに鷹名に奇獣商になるための試験を受けさせるのですが、それが思わぬ騒動に発展。その中で自分の血にまつわる宿命を知った鷹名は……


 はじめは奇獣にまつわる市井の人情ホラー連作的な味わいのあった本作。しかし物語が進むに連れて世界観は次々と広がり、前の巻辺りから、「奇獣の兵器利用」を巡る暗闘に、物語の中心が完全に移った印象があります。
 しかし物語がこれほどスケールアップすると、鷹名の出番はなくなってくる――ということはないのが本作の面白さであります。この巻においては、以前語られた鷹名の出生の秘密が、再びクローズアップされることになるのですから。

 かつて水の神(と信じられたモノ)を祀る一族に生まれ、神の贄として育てられてきた鷹名。ある事件から一族は鷹名を残して滅びましたが、代々神の贄となってきた一族の末裔である彼は、奇獣を惹きつける「鬼飼血統」と呼ばれる血を持っていたのであります。
 四王天により水の神は滅ぼされ、鷹名は宿命から解放されたかに見えましたが――しかし同じ水の奇獣・アリスと宿命的に引き寄せ合う彼は、アリスが傷を負わされた際に暴走。その結果起きた大騒動は前の巻で描かれましたが、それを受けてこの巻では、彼の鬼飼血統の真実が、さらに掘り下げられて描かれることになります。

 と、かなり深刻かつ重い展開の中でも、元々天然気味だった鷹名は相変わらずなのが実に愉快なのですが――この落差は本作全体を貫く、一種の魅力と言ってよいでしょう――そこで一端が描かれた彼の力は、物語の本筋ともいうべきある奇獣争奪戦に大きな意味を持つことがここで明らかになります。

 四王天がその存在を知ると目され、一連の事件の背後で糸を引く怪軍人・宍戸が追い求める伝説の奇獣「ナンバー04」。奇獣を食らい、奇獣のあるところに現れ、そしてけた外れの殺傷力を持つというこの「ナンバー04」を御することができれば――それがどのような意味を持つかは明らかでしょう。

 本作で描かれてきた奇獣にまつわるルールの一つ、「奇獣を操る魔法はない」――その例外を巡り、この先の物語は展開していくのでしょう。


 その一方で、以前登場したイイ女を目指しながら徹しきれない人情家の(元)女給の竜江や、彼女に奇獣を与えた奇矯な(元)富豪など、一度限りかと思われたキャラクターが再登場し、物語を賑やかにしてくれるのが嬉しい。
 先に述べたとおり、市井を舞台とした連作という側面もある本作ですが、それが伝奇的な展開と結びつくことで、お互いの持ち味をより引き出しているように感じられます。
(というより、個人的には純粋に竜江さんのエピソードが好きだったので再登場は実に嬉しいのです)

 そしてその二つの流れのある意味接点であり、本作随一の(?)一般人である鷹名の友人・司を巡り、ちょっと気になる展開を描いて終わるこの第5巻。
 正直に申し上げれば、本作がこれほどまでにスケールアップし、独自の伝奇世界を作り上げていくとは、物語を読み始めた時には思っていなかったのですが――いまや、最も目が離せない伝奇漫画の一つになっていると感じられます。


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