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2019.04.10

小松エメル『一鬼夜行 つくも神会議』(その二) 渦巻く情念と、互いに寄り添うことと


 『一鬼夜行』シリーズのわき役たちを主人公とした作品を中心に収録した短編集『つくも神会議』の紹介の後編であります。今回は、本書の中でも特に印象に残る二つの作品を紹介します。

『姫たちの城』
 荻の屋の付喪神たちの中でも一番口うるさい前差櫛姫。小さな姫の姿を取る彼女はその名のとおり櫛の付喪神であります。
 その彼女は、元々はさる名人の手によって生み出されて早くに妖力を発揮し、ある姫君の元に買われていった時に付喪神として目覚めたのですが――しかしその姫君・お正は、あばら屋のような家に、老女と少女のわずか二人の供と住んでいたのであります。

 そのお正の前で正体を顕してしまい、彼女の身の上話を聞くことになった前差櫛姫。何とお正は、さる殿様の側室を母に持ちながらも、不義の子と噂された上、母がしでかしたとんでもない不始末の罪を償うため、このような暮らしをしているというのですが……

 付喪神たちの中でも、サイズは小さいながらも人間の女性姿で、物好きにも喜蔵に熱い想いを寄せる前差櫛姫。その、良くも悪くも女性へのある種のイメージを誇張したようなキャラクターは、付喪神たちの中でも一際印象的であります。
 そしてその前差櫛姫を主人公とする物語は、彼女の目を通じて、姫たち――すなわち女性たちの姿を描き出すのであります。

 お正をはじめ、本作に登場するのは、いずれも望まぬ環境に置かれ、己の想いとは裏腹の生を送ることを強いられた女性たち。
 舞台となるのが、今以上に女性が暮らしやすくない時代だったとはいえ――彼女たちは運命の悪戯から哀しい境遇に追い込まれ、自らをすり減らしていくことになります。

 ……いや、それがは正確ではありません。それが単なる運命の悪戯であれば、まだ救いがあったかもしれません。しかし本作の女性たちは、自ら道を選んでしまった――それ以外の道が目に入らない状況であったとしても、しかし、選んではならない道を選んでしまったのであります。

 本作は、前差櫛姫というある意味信頼できない語り手の口を通じて語ることにより、その哀しみを幾重にも強めることになります。一つの真実が語られた末に、それをひっくり返して新たな真実が語られ、そしてその先にもまた新たな真実が――と。
 そしてその度に心臓を掴まれたような気分になりながら、最後に我々が知るのは、途方もなく哀しく、そして美しい真実――かもしれないものであります。

 個性的なキャラクターの愉快なやりとりが印象に残る作者の作品ですが、しかしその背後には、極めて濃厚な情念が渦巻いている――そしてそれでいて、いやそれだからこそ、それがひどく魅力的に感じられる。
 そんなことを再確認させられる本作は、個人的には本書でベストの作品であります。


『化々学校のいっとうぼし』
 最後に収録されたのは、本書ではようやく登場したともいえる小春を主人公とした物語。しかし本作で彼が対峙するのは、本シリーズではおそらく初の相手なのであります。

 お目付役の青鬼の命で、旧知の妖怪・このつきとっこうのもとに向かうことになった小春。以前から何かを学び、教えることに異常な情熱を持っていたこのつきとっこうは、昔からの夢である、妖怪たちが通う「化々学校」を開設していたのであります。
 そこでこのつきとっこうから、最近生徒たちの間で噂になっている、品川はずれの港に出没する得体の知れない者の正体を突き止めて欲しいと頼まれた小春。不承不承引き受けた小春の前に現れたのは、何と蝙蝠の魔物を連れた西洋の「魔女」で……

 というわけで、初の西洋妖怪のお目見えとなった本作。もちろん本作に登場する「魔女」アルは日本征服にやってきたわけでなく、あるよんどころない事情があってやって来のですが――こういう時に放っておけないのが小春であります。

 アルを連れて東京を駆けめぐる小春ですが、やがて意外な、そして残酷な真実を知ることになって――と、やはりここでもまた、ギョッとするくらい生々しい情念の存在が描かれる本作。
 ここでもまた、あまりにも大きなやりきれなさの存在に胸が塞がるのですが――しかしそれでも自らの決めた道を貫くのが、小春の小春たる所以であります。

 シリーズで繰り返し描かれてきた、誰かと誰かが寄り添うこと――そこから生まれる、様々な垣根を乗り越える小さな希望の姿を描いてみせる本作は、小春が活躍するというだけでなく、やはり本書の掉尾を飾るに相応しい物語だと感じるのです。


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(P[こ]3-12)一鬼夜行 つくも神会議 (ポプラ文庫ピュアフル)


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