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2019.05.08

『どろろ』 第十七話「問答の巻」

 死人の欠損した部位を作り続ける寿海の前に現れた百鬼丸。百鬼丸の成長を喜ぶ寿海だが、戦いのために義足を欲しいという言葉に顔を曇らせる。戦い続ければ傍らには誰もいなくなるのではないかと恐れる寿海に、既にいると答える百鬼丸。一方、景光は多宝丸に百鬼丸討伐を命じていた……

 どろろの方は一休みして、百鬼丸側の物語が描かれる今回。予想通り重苦しい内容となりましたが、ある意味本作のテーマを問い直したともいえる、重要なエピソードであります。

 百鬼丸を送り出した後も、ただ一人、死人の欠損した部位を補っては弔い続けている寿海。戦場荒しの人々の言葉によれば、生きている人間の治療よりも死人を優先しているようですが――そこに突如現れ、人々に襲いかかった獣のような妖は、何故か寿海には襲いかかろうともしない様子を見せます
 と、そこに現れて妖を叩き斬ったのは百鬼丸。しばらく離れていた間に幾つもの体の部位、聴覚や声を取り戻し、笑みさえ浮かべることができるようになった百鬼丸を大歓迎する寿海ですが、戦いのために義足が欲しいという言葉には複雑な表情を見せます。そんな寿海に問われ、旅の中で知った自分の出生の秘密と家族の存在を語る百鬼丸ですが――あまりの無惨な宿命に驚き悲しむ寿海は、戦いの中で百鬼丸が妖だけでなく人も殺めたことを見抜き、足はやれないと答えるのでした。

 自分にはお前を救えぬと、百鬼丸にとっての地雷ワードを口にする寿海と、それでも頑なに足を求める百鬼丸。理由を尋ねる寿海に、百鬼丸は体が欲しいと答え、何故欲しいのかとさらに問われると、俺のものだから、鬼神は全部殺すと答えます。それはある意味もっともとしても、しかし戦い続けた果てに、百鬼丸の周囲には屍のみが在るのではないかと危惧する寿海に――誰とは言わぬまでも――百鬼丸は既にいる、と答えるのでした。
 そんな中、合戦場に生えた樹木の変化・屍木の実から無数に現れる冒頭の妖たち。それを容赦なく叩き斬る百鬼丸の姿に、寿海は川から彼を拾い上げ、体を与えたつもりになっていた自分も、結局は彼を修羅の川に流した鬼神と同じだったと嘆じるのですが――しかし戦いを終えて旅立つ百鬼丸は、いまだに名乗らぬままであった寿海に対し、「おっかちゃん」と呼びかけるのでした。

 一方、醍醐領では、自分の母・縫の方が昏睡状態から目覚めたにもかかわらず郊外に現れた妖怪退治を優先する多宝丸。そこで待ち受けていた、屋敷の人間たちを餌に子供たちを育てる鼠の妖を倒した多宝丸は、非情にも親を慕う子もろとも妖たちを焼き払うように命じるのでした。
 そしてどろろの行方を突き止めた父の命により、軍勢を率いて出立する多宝丸。もう二度と剣を情で鈍らせないと誓う多宝丸と百鬼丸、そしてどろろたちの運命は白骨岬で交錯することに……


 寿海という本作では常識人の部類に入る――しかし極めて悩み多き人物の目を通じて、百鬼丸が戦う理由と、その是非を問い直した今回。
 奪われたものを取り返すのはもっともであり、そして彼に国一つを背負わせた責は景光が負うべきと考えながらも、しかし戦い続けることで百鬼丸が鬼神に――屍山血河を往くだけの存在になってしまうことを恐れる寿海の悩みは、醍醐家の人々とは別のベクトルで、百鬼丸の戦いの危険性を語っていると言えるでしょう。
(同様のことは琵琶丸も以前語っているのですが、親代わりである寿海の方がより切実に感じられます)

 しかし少なくとも百鬼丸が孤独ではないことを我々はよく知っています。そして彼が決して戦うだけの存在でもないこともまた。
 今回のラスト、百鬼丸の言葉が、寿海自身気づかぬままに失われかけていた彼の人間性を甦らせるのは、その現れというべきでしょう(これが冒頭、自分が百鬼丸の何なのか悩む寿海の言葉に対する答えにもなっているのが実に心憎い)。

 そしてその一方で、百鬼丸と対照的に心を失っていくように見える多宝丸。人を喰らう妖とはいえ、何のためらいもなしに親子を(その情を利用するような形で)葬ったのは、その象徴というほかありません。
 その多宝丸と百鬼丸が再びぶつかる時、何が起こるのか。以前は最悪の状況だけは避けられましたが、さて今度は――次回も大いに気になるところであります。


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