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2019.05.18

山口貴由『衛府の七忍』第7巻 好青年・総司と、舌なき者らの声を聴く鬼と


 タイムスリップまで飛び出して、いよいよノってきた印象の『衛府の七忍』、第7巻をほとんど丸々使って描かれるのは、「魔剣豪鬼譚」沖田総司編――タイムスリップで元和の世に現れた総司の姿であります。新たな生き方を模索する総司の前に現れる柳生宗矩、そして新たな鬼との戦いの行方は……

 壬生狼として幕末の京で恐れられながらも、今は病を得て江戸で療養中の沖田総司。しかし突如愛刀・菊一文字とともに元和元年の江戸にタイムスリップした彼は、来て早々に旗本狩りを行う鬼と遭遇することになります。
 鬼の口から「今」が幕末ではないことを知り、行く当てもなく放浪する総司。今度は柳生宗矩と遭遇してしまった彼は、売り言葉に買い言葉で宗矩と刃を交えることとなります。

 宗矩の勝手な納得でその場はなんとか収まり、町道場に転がり込むこととなった総司。町道場といえば総司にとっては馴染みの場、そこで師範代となった彼は、道場の一人娘と結ばれ、新たな生を生きることを決めるのですが……


 前巻の後半から登場した沖田総司。江戸時代初期の物語に幕末の総司が!? という違和感がほとんどゼロなのは、変身ヒーローから巨大ロボットまで何でもありの世界観ゆえ――というのは確かですが、しかしそれ以上にその人物造形による点が大きいと感じます。

 そんな本作の総司を一言で表せば「イマドキの好青年」。敵とみれば全く容赦せずに冷徹に叩きのめすその姿は鬼より怖い壬生の狼そのものですが、しかしその性格は純粋で物怖じせず、そして良い意味で武士らしさを持たない実に気持ち良い青年であります。
 その物腰は柔らかく明るく(軽く)、女性に対しては紳士的。そして何かといえばモノローグで「土方さん、総司○○です」と語りかける姿は何とも微笑ましいものがあります。

 特にこの巻の冒頭、行き場をなくした総司が、河原で暮らす夜鷹たちの中に紛れ込んで彼女たちと仲良く言葉を交わす姿は、夜鷹を人間扱いしないこの時代の武士たちとは全く対照的な、彼の人物像を示す名場面でしょう。
 個人的には一つのエピソードがあまり長いのは苦手なのですが、この総司であればもっと長く見ていたい――という気分になるのであります。


 しかし、本作は総司の青春、いや凄春記ではなく、あくまでも「鬼」を巡る物語であります。
 このエピソードで登場する鬼は旗本狩りの鬼・霓鬼――その正体は刀剣御試役・谷衛成。あらゆる体勢から、あらゆる太刀で相手を斬る丹波流試刀術の達人である彼もまた、夜鷹たちから慕われる武士らしくない武士ですが――しかし皿を割っただけで無惨な仕置きを受けた少女・雀を御試の名目で斬らされた際に、鬼に変じた彼女とともに怨身し、「舌なき者らの声」を聴く鬼と化したのであります。

 あるいは人間として出会えば、肝胆相照らす仲になったかもしれない総司と衛成ですが、しかし夜鷹たちに対する幕府のあまりの非道に対して雀が行った報復が、今度は総司の――と、怨念が怨念を呼び、総司と衛成いや霓鬼はついに激突することに……(そして巻き込まれる宗矩)

 幕府の非道に対するのが衛府の鬼たちであるとすれば、彼らと敵対する者たちは、すなわち非道の手先――というのがこの『衛府の七忍』の基本フォーマットであります。
 しかし作品中作品ともいうべき「魔剣豪鬼譚」で描かれるのは、その衛府の鬼たちに対して、己の信念と戦う理由を持って戦う剣豪の姿。どちらが単純な悪というわけではなく、むしろどちらも正しい――その姿は、弱者の復讐譚というべき『衛府の七忍』の、ある種のバランス感覚、内側からの強烈なアンチテーゼとして感じられます。


 何はともあれ、どちらも負けて欲しくない戦いがここに始まったのですが――しかし少々気になるのは、総司の徳川家康とその元和偃武への、あまりに無邪気な信頼感であります。
 それは新選組隊士としてはある意味当然のものなのかもしれませんが、しかしそれこそが鬼を生み出していると知った時、総司はそこに「誠」を見出すことができるのか――霓鬼との決着以上に、その点が大いに気になるところなのです。


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