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2019.05.03

久正人『カムヤライド』第1巻 見参、古代日本の特撮ヒーロー


 ヤマト朝廷による統一が進む時代に復活した国津神を人の世から放逐するヒーローの活躍を描く特撮風味濃厚の古代変身アクション『カムヤライド』の第1巻であります。「コミック乱ツインズ」の紹介の中で毎回触れてきたので今更の感もありますが、作品単体として、一度きちんと紹介いたします。

 時は4世紀――ヤマト朝廷が畿内を中心として列島の支配を進めつつも、しかし周辺各地にはまつろわぬ者もいまだ多く、反乱が続発していた時代。そんな反乱の一つである九州を騒がす熊襲の王・カワカミタケルの討伐に向かうヤマトの皇子・オウスは、途中、奇妙な男・モンコと出会うことになります。

 自分が作った埴輪なるものを広めるために旅しているというモンコから、埴輪を手渡されたオウス。その出会いから一週間後、カワカミタケルと対峙したオウスは、常人とは思えぬ力を前に配下を皆殺しにされた末、異形の化け物と化した相手に襲われるのですが――その時、モンコの埴輪に触れた化け物は、粉々に吹き飛ぶのでした。
 そこに現れ、カワカミタケルは力を与えられて人の境をはみ出した存在・土蜘蛛と化したこと、彼に力を与えたのがこの地に眠る国津神であることを語るモンコ。そして姿を現した巨大な国津神を前に、モンコは足元の土を身にまとい、鎧姿の戦士へとその身を変えます。戦士――人と神の境で門を閉じる者・神逐人(カムヤライド)に!


 ……というわけで、日本が誇る特撮変身ヒーローの世界を、古代を舞台に漫画の世界に巧みに移植してみせた本作。

 移植といっても、一歩間違えれば単なるもどきに終わりかねない特撮変身ヒーロー「風」キャラの漫画化ですが、しかし本作はまずデザインの時点で、最初のハードルをクリア(作者は近年スーパー戦隊もののデザインに参加しているので、ある意味当然かもしれませんが)。
 それだけでなく、変身直後の「俺の立つここが境界線だ!」や、国津神に必殺技を決めての「ここより人の世 神様立ち入り禁止だ」といった決め台詞の格好良さ、そしてその必殺技のギミックなど、ヒーローものとしてのフォーマットの存在が、実に「らしい」のが素晴らしいところであります。

 そしてそれらの要素が、ヤマトタケルという古代の超有名人の事績と結びつけて語られることによって、絶妙なバランスをもって一つの物語として成立している点にも注目すべきでしょう。
 一種(どころではなく)混沌とした世界観を、作者ならではのスタイリッシュな絵と、「史実」の事物を自身の作品世界に取り込む一種の伝奇センスによって、豪快に成立させてみせる――そんな作品構造は、実に作者らしいというほかありません。


 そしてそうした派手な部分だけでなく、唯一国津神を封印する力を持つ謎めいたモンコと対比される副主人公として、ヤマトタケルが配置されているのもまた巧みといえます。

 先に述べた通り、古代日本の最大のヒーローであるヤマトタケル。そのヒロイックな神話の内容とは裏腹に、本作の彼は、ヤマトの皇子という身分でありながら、いささか頼りない少年として登場します。
 しかし、そんな彼だからこそ、神話の怪物たちを前に、一人の人間として無力感を味わい、そしてその中で成長していく姿が、実にヒロイックに感じられます。既に完成されたヒーローであるモンコに対して、未完成のヤマトタケルもまた、異なる形のヒーローに感じられるのです。

 そう、本作はモンコとヤマトタケルと、虚実(?)二人の「ヒーロー」もの。古代という半ば神話というファンタジーのベールに包まれた世界を、特撮という現代のファンタジーと掛け合わせることによって、新たなヒーロー物語を生み出してみせたのが本作なのであります。


 そしてこの巻の終盤では、神話に登場するもう一人の「タケル」であるイズモタケルが登場。その物語が本作でどのようにアレンジされるのか――請うご期待であります。
(そして雑誌連載の方では、ヤマトタケルとは切っても切れないあの人物が、とんでもないアレンジで登場して……いやはや、どこまでいくのでしょうか)


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