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2019.06.06

『妖ファンタスティカ』(その三) 日野草・誉田龍一・谷津矢車


 操觚の会の「書き下ろし伝奇ルネサンス・アンソロジー」『妖ファンタスティカ』の紹介の第三弾であります。

『遠夜』(日野草)
 養子に出された後に職を転々とし、今は手習い指南所の師匠として静かに暮らす青年・京悟。ある晩、「首(おびと)」とだけ名乗る傷だらけの男を助け、匿った京悟ですが、男は謎めいた言葉を残して姿を消すのでした。
 その翌日、遺恨から不良武士たちと果たし合いをすることとなった京悟。相手の刃が彼に迫ったまさにその瞬間、首が現れ……

 結成以来、驚くほどの勢いでメンバーを増やしてきた操觚の会ですが、作者は最も新しいメンバーの一人であり――そしてミステリをホームグラウンドとしている作家です。

 その物語で主役を務めるのは、いかにも時代小説らしい手習い所の師匠の好青年。しかし彼の前に謎めいた人物が現れそして消え、そして剣戟の場に彼が立たされた時――隠された数々の真実が明かされ、そして物語は思わぬ方向に向かっていくこととなります。
 青年が抱えていた屈託と、罪の記憶。しかしそれよりも遙かに深い闇と対峙した時、彼は何を思うのか……

 ミステリの手法を用いて揺れる青年の心の揺らぎを描き、そしてホラーとしてそれをちっぽけな感傷とあざ笑うような怪異を叩きつける――作者の実力のほどをうかがわせる作品です。


『血抜き地蔵』(誉田龍一)
 大学時代の友人から久々に呼び出された語り手。そこで彼を待っていたのは、二人が学生時代に出会った、とある寺院に伝わる血抜き地蔵の伝承の証拠とも言うべきものでした。
 それに関わった者は、悉く体内から赤い血を失い、苦しみ抜いて息絶えたといわれる血抜き地蔵。彼らが知ったその正体とは……

 現代人が語り手という思わぬスタイルの本作は、しかし彼の目を通じて、江戸時代の山村を襲った土俗的怪異の存在を語るという、変格の時代伝奇というべき物語。
 もちろん語り手が血抜き地蔵の奇怪な伝承を知るのは、古文書を通じてなのですが――過去という遠くに存在し、彼らに関わるはずもなかった怪異が、気付けば目の前にあるという、一種の遠近法的怪異描写は、なかなかにスリリングであります。

 あ実に豪快な怪異の正体や、(語り手にとっては)理不尽極まりない結末といい、どこか懐かしい伝奇ホラーの味わいを漂わせる佳品です。


『生き過ぎたりや』(谷津矢車)
 「生き過ぎたりや廿五 逸兵衛」と鞘に大書された太刀を手に、江戸のかぶき者たちを束ねてきた大鳥逸兵衛の耳に入ってきた奇怪な噂。それは江戸に彼と瓜二つの男が出没して、派手に暴れ回っているというものでした。
 もちろん彼にとっては覚えのない話――噂の主を捕らえるべく江戸を奔走し、ついに出会った逸兵衛は、まさに自分と瓜二つの相手が奇怪な存在であると知るのですが……

 本書のトリを務めるのは、『伝奇無双』では巻頭を飾った作者の作品。そしてこれが実に作者らしさに溢れた作品であります。

 開府直後の江戸で、主に中間や小者たちを束ね、武士たちの向こうを張って暴れ回った実在のかぶき者・大鳥逸兵衛(逸平)。
 タイトルにもなっている刀の文字に表れているように、明日を考えぬ勢いで生き、そしてその通りに死んでいった人物ですが――しかし本作はその彼が巻き込まれたドッペルゲンガー騒動を通じて、彼の隠された心中を描き出すのです。

 デビュー以来、能力を持ちながらも社会という壁にぶつかり、あがきながら生きる(あるいは死ぬ)若者の姿を多くの作品で描いてきた作者。
 そんな彼らの姿は作者自身に通じるものを感じる――というのはさておき、本作もまた、怪異という鏡を通じて、彼らの姿を、痛烈に浮かび上がらせているといえます。

 ……と、実はこの辺りは作者自身の言葉にもはっきりと表れているのですが、いずれにせよ、短編ながら実に作者らしい作品と申し上げた所以であります。


 次回(最終回)に続きます。


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