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2019.06.07

『妖ファンタスティカ』(その四) 朝松健・芦辺拓・彩戸ゆめ・蒲原二郎・鈴木英治


 操觚の会の「書き下ろし伝奇ルネサンス・アンソロジー」『妖ファンタスティカ』の紹介も今回で最終回。まとめて五編紹介させていただきます。

 『夢斬り浅右衛門  小伝馬町牢屋敷死罪場』(朝松健)
 本作は、『伝奇無双』に掲載された『夢斬り浅右衛門』のある意味本編とも言うべき物語。
 「夢を拾う」、すなわち他人の夢を自分のものとして見る力を持つ仙台藩士が、夢で見た浅右衛門の仕置きの場に立ち会うことで、更なる不思議な世界に入り込む――という物語は、作者ならではの丹念かつ静謐さを感じさせる文章で読ませる作品ですが、長編の一部という印象が否めないのが残念なところです。


 『浅茅が学問吟味を受けた顛末  江戸少女奇譚の内』(芦辺拓)
 本作もやはり『伝奇無双』収録作品の『ちせが眼鏡をかけた由来』と同じシリーズに属する作品。
 男装して昌平黌の学問吟味を受けることとなった少女が巻き込まれた騒動を描く物語は、作者にしてはミステリ味がちょっと控えめなのが惜しいところであります。

 本作や『ちせが眼鏡をかけた由来』は、長編『大江戸黒死館』のプリクウェルに当たるとのことですが――早くこちらもを読みたいものです。


『神楽狐堂のうせもの探し』(彩戸ゆめ)
 神楽坂で美青年が営む喫茶店兼失せ物探しを訪れた少女の不思議な体験を描く本作は、本書で唯一の純粋な現代もの。まさか本書であやかしカフェものを読むことになるとは……!
 舞台は好きな場所ですし、描かれる「失せ物」の正体もグッとくるのですが、伝奇アンソロジーである以上、「彼」の正体にもっと伝奇的な仕掛けが欲しかったところです。


『江都肉球伝』(蒲原二郎)
 江戸で妖怪変化絡みの事件を専門とする同心に、配下の猫又たちが持ち込んだ事件。それは江戸を騒がす連続怪死事件の始まりで――という、変格の捕物帖ともいうべき作品。
 猫又が主人公の作品や、妖怪と人間のバディものは、今ではしばしば見るシチュエーションですが、本作のように猫又が完全に人間の子分として使われているのはなかなか珍しいのではないでしょうか。


『熱田の大楠』(鈴木英治)
 桶狭間の戦の直前に、信長の奇襲を察知した今川家の忍び。信長が出陣前に熱田に詣でることを知った彼は信長狙撃を狙うも……
 作者の桶狭間ものといえば、やはりデビュー作の『義元謀殺』が浮かびますが、本作は全く異なる角度でこの戦いを扱った掌編。この路線を突き詰めると非常に面白い伝奇ものになるのでは――と感じます。


 以上、駆け足の部分もありましたが、全十三篇を取り上げさせていただきました。いずれも短編ながら、作者の個性が発揮された作品も少なくなく、時代小説プロパー以外の作家の作品も含めた貴重な――そして何よりもバラエティーに富んだ伝奇アンソロジーとして楽しめる一冊であります。
 正直なところ、「怪奇」よりの作品が多かった印象もあり、この辺り、実は短編で伝奇ものを描く難しさにも繋がっていくように思われますが……

 何はともあれ、この伝奇ルネッサンスの流れがこれからも絶えることなく続き、さらなるアンソロジーにも期待したい――心よりそう思います。


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