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2019.06.15

山本巧次『開化鐵道探偵 第一〇二列車の謎』 徳川埋蔵金が映し出す時代の境目の想い


 デビュー作『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』もドラマ化された作者が、明治時代の鉄道を舞台に描くミステリシリーズの第2弾です。元八丁堀同心と鉄道技手のコンビが、今回挑むのは、何者かによって脱線させられた新型車両から発見された千両箱を巡る数々の謎であります。

 逢坂山トンネルの怪事件から6年後の明治18年――開業間もない大宮駅で、新型車両を連結した貨車の脱線が発生。それが何者かがポイント切り替えを行ったことによるものだった上に、脱線した車両から、記録にない小判のつまった千両箱が発見されたことから、大事件に発展することになります。
 その積み荷を乗せたのは群馬の高崎――高崎といえば、末期の幕府を支えた勘定奉行・小栗上野介が隠棲し、官軍に処刑された地。すなわちこの千両箱は、密かに囁かれてきた徳川家の埋蔵金ではないのか!? と……

 そんな中、長州五傑の一人にして、今は日本の鉄道網整備に邁進する井上勝に呼び出された元八丁堀同心・草壁賢吾と、なりゆきから彼の助手を務めてきた鉄道技手・小野寺乙松は、この事件の調査のために高崎に向かうことになります。
 高崎で二人を待ち受けるのは、千両箱=徳川埋蔵金を巡って火花を散らす没落士族、自由党の過激派、そして警察。そんな一触即発の状況下で、ついには高崎駅で自由党員が殺害される事件までが発生するのでした。

 小野寺の新妻で高崎出身の綾子まで捜査に加わり、三つ巴、四つ巴の構図の中で、草壁が明かす事件の真相とは……


 鉄道が日本中に普及する前、先人たちが文字通り道を切り開こうとしていた時代を舞台に描かれる時代鉄道ミステリとも言うべき本シリーズ。
 前作は逢坂山トンネルに対する妨害工作に挑む草壁&小野寺コンビの姿が描かれましたが、今回は鉄道脱線を巡る事件だけでなく、何と徳川埋蔵金を巡る謎解きまでが加わり、大いにそそられるところであります。

 誰が鉄道を脱線させたのか、何故その貨車に千両箱が乗せられていたのか。高崎駅で何故殺人は起きたのか。そして何よりも、本当に埋蔵金は存在するのか……
 上で述べたように、埋蔵金を巡って各勢力が入り乱れる中、事件の様相も前作に比べてグッと派手になり、クライマックスでは大乱戦も勃発するサービスぶりですが――主人公サイドも、新たに綾子が加わって賑やかになったのが楽しいところであります。

 美しく聡明で非の打ち所のない女性――のようでいて、いささか好奇心が強すぎて、隙あらば事件に首を突っ込んでくるという彼女の存在は、ある意味お約束ではあります。しかし前作同様、時に端正すぎる部分がある本作をいい感じにかき回してのが楽しいところです。(彼女の存在を含めて、様々な点で前作での不満点を解消しに来ているのは好感が持てます)


 しかし本作で最も強く印象に残るのは、やはり小栗上野介の、徳川幕府の埋蔵金の存在でしょう。
 もちろん本作のオリジナルではなく、現代に至るまで、幾度も存在が囁かれてきた小栗上野介の埋蔵金。フィクションの題材となることもしばしばですが――本作は上で述べてきたように、この埋蔵金の存在がそもそもの発端であり、事件に関わる者たちを動かす原動力であり、そして全ての謎の淵源とも言える存在なのであります。

 そして埋蔵金はそれだけでなく、一種の鏡としての役割をも果たします。埋蔵金を巡る人々の――明治18年という、江戸時代の残滓がどんどん消えていく一方で、まだ完全に新たな時代が来たわけではない、そんな狭間の時代に生きる人々の心を映す鏡として。

 本シリーズの舞台そして題材は、鉄道という新たな時代の象徴ともいうべき存在であります。しかしそんな新たな時代に乗り切れない人々もいます。古い時代の傷に苦しむ人々もいます。
 そんな時代の境目で人々が抱えるやりきれない想いは、埋蔵金に対する態度にも表れます。そしてそんな想いが引き起こす事件を、やはり元八丁堀同心という過去を持ちつつ、それに囚われない草壁が解決していく――そんな構図は、何とも象徴的に感じられるのです。

 もっとも本作のような物語においては、草壁のその囚われなさが少々ずるいな、と感じさせられるのも事実なのですが……


 何はともあれ、前作以上に時代ミステリとして楽しめた本作。続編があるならば、舞台はやはりラストに登場したあの地ではないかという気もしますが――さて。


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