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2019.06.25

石川ローズ『あをによし、それもよし』第2巻 ミニマリスト山上、「山上憶良」になる!?


 現代のミニマリスト・山上が奈良時代にタイムスリップするという、極め付きにユニークな歴史コメディ『あをによし、それもよし』、待望の続巻であります。相変わらずマイペースに奈良ライフを満喫する山上ですが、思わぬ形でこの時代で新たなしがらみが……

 とにかく物を持たず、物に執着せずに暮らすことに全てを賭けてきたサラリーマン・山上(やまがみ)。日頃、物質社会の現代の生き辛さを嘆いてきた彼ですが――どうしたことか突然タイムスリップし、奈良時代に行ってしまったのでした。
 そこで、「あをによし奈良の都は咲く花の薫ふがごとく今盛りなり」と詠んだ一発屋(と作中で呼ばれる)小野老と出会い、彼と共同生活を始めることになった山上。

 現代と違って質素で不便な奈良時代の生活ですが、むしろ彼にとってはこれこそが求めていたもの。水を得た魚のように奈良ライフをエンジョイする彼は、違和感なくこの時代に溶け込んで……


 と、(最近の)タイムスリップものでは定番である、過去の時代に現代の知識やアイテムを持ち込んで無双するという展開にきっぱり背を向けて――というより、過去の時代の不便さを満喫するという、ある意味非常に斬新な本作。
 もちろんその流れはこの巻でも全く変わらず、風呂がない中でも蒸し風呂に入ったり、夏バテに川でアレを捕まえて食したり――相変わらずマイペースな山上と俗物根性旺盛な老の愉快なやり取り、そして絶妙な史実アレンジの数々が楽しめるのですが――しかし、この巻では山上の身に、さらにとんでもない事態が発生することになります。

 時の中納言・粟田真人――遣唐使として則天武后時代の唐に渡り、そこその儀容の見事さを讃えられたという逸話を持つ(でもやっぱり本作では何かヘンな)彼が、偶然出会った山上のことを「山上憶良」と言い出したのです。
 聞けば「山上憶良」は真人と同じ時に遣唐使になりながらも、その途上で消息を断ったという人物。彼を引き立てた真人は、その才を惜しんでいたというのであります。

 ……いやはや、本作では山上が後に「山上憶良」と呼ばれるようになるものだとばかり思い込んでいましたが、何と「山上憶良」が別に存在していたとは!
 意外な展開に驚いていれば、さらに以外なのは「山上憶良」は妻子持ちだというではありませんか。真人からは従五位下の位を用意すると言われ、妻子までいるとなれば、普通の人間であれば喜ぶところですが、しかしミニマリスト・山上の選択は――?


 山上憶良といえば「貧窮問答歌」、という組み合わせのおかげで、何となく本人も貧窮していたイメージのある憶良ですが、しかし史実では遣唐使に選ばれたエリートであり、帰国してからは従五位下、すなわち貴族として国守にもなった人物(そして子煩悩)であります。
 どう考えてもミニマリストにはほど遠い人物ですが――といっても本作の「山上憶良」もしっかりミニマリストだったようですが――さて山上は「山上憶良」としてやっていくことができるのか?

 ……と、あまり深刻にならないのが本作の良いところ。何となくノリで物語は進行し、いよいよ山上も歴史に名を残すことになりそうですが――さて。
 同じくタイムスリップしてきた(元)カリスマミニマリスト・フジワラさん改め藤原不比等との対決(?)の行方も含め、この先の山上の運命が気になる――いや、良い意味で全く気にならない、実に楽しい物語であります。


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