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2019.06.20

唐々煙『泡沫に笑う』 鎌倉から明治へ、二人の道の先に待つもの

 『曇天に笑う』『煉獄に笑う』の前日譚でもあり、『曇天に笑う』の後日譚でもある物語――『泡沫に笑う』が刊行されました。オロチと戦うために生み出された式神・牡丹と彼女を愛する隻腕の青年・比良裏の、時を超えて繰り返されてきた愛の物語は、ここに結末を迎えることになります。

 300年に一度復活する呪大蛇と人間たちの戦い――鎌倉時代を舞台としたその前々回の戦いにおいて、曇神社の初代当主・景光とともに戦い、大蛇を封じた牡丹と安倍比良裏。
 人ならざる牡丹を深く愛しながらも、大蛇を封印したことで牡丹は消滅し、比良裏はいつか彼女と再会することを誓うことになります。

 そして時は流れて明治時代、曇の三兄弟たちの奮闘によりついに大蛇は消滅。彼らとともに戦ってきた比良裏、そして牡丹にも安らぎの時が訪れたはず、だったのですが――しかし牡丹は人々の記憶から自分の存在を消し去り、一人姿を消してしまったのであります。比良裏を残して……

 この『曇天に笑う』第1巻に収録された(というか第1巻の大半を占める)前日譚である短編版『泡沫に笑う』の物語と、シリーズ全体の後日譚である『曇天に笑う外伝』の物語。本作はその間に挟まる物語であり、そしてその後に位置する物語であります。

 これらの作品――呪大蛇サーガというべき物語は、もちろん曇の一族を中心とするものであります。
 その一方で、長きに渡る物語を見届ける者として登場してきたのが比良裏と牡丹。この二人は、物語全体を繋ぐ縦糸とも言うべき者として存在すると言ってもよいでしょう。

 しかし物語の中心からほんの少しずれたところにいるためか、冷静に考えれば謎も少なくないこのカップル。
 消滅した牡丹が復活したのは何故か。比良裏は何故転生を繰り返しているのか(どのようにして転生できるようになったのか)。牡丹は何故戦国時代に「髑髏鬼灯」と呼ばれていたのか。比良裏と織田信長が瓜二つなのは偶然なのか。そして何よりも、牡丹はどこに消えたのか、比良裏は牡丹と再会できるのか……

 正直なところ、これまで謎を謎と認識していなかったものもあります(比良裏、根性で後追っかけてるんだなあ、とか)。また、明かされると思っていなかった謎もあります。
 しかし本作は、短編版『泡沫に笑う』の後の比良裏と景光の新たな冒険を描きつつ、その謎の全てに答えを用意してみせるのです。

 そう、本作は、短編版『泡沫に笑う』の後日譚であり、同作と『煉獄に笑う』を繋ぐ物語であり、『曇天に笑う』の結末であり、そして比良裏と牡丹の物語の結末である――そんないう離れ業を演じてみせる物語。
 その内容について詳しくは述べませんが――一連の物語を未読の方にはさすがにお勧めしないものの、逆に言えばこれらの作品をこれまで読んできた方にとっては必読の物語であると、そう断じさせていただきたいと思います。


 本作と第10巻が同時発売の『煉獄に笑う』の方は、まだまだ完結は遠いようですが、しかし一足先に、美しい形で終わりを見せてくれた二人の物語。
 それはファンにとっては、ちょっと寂しいことではありますが――しかし道の先にこの物語が待っていると考えれば、それは何とも暖かく嬉しいことに感じられます。


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