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2019.06.04

『妖ファンタスティカ』(その一) 秋山香乃・神野オキナ


 「書き下ろし伝奇ルネサンス・アンソロジー」と銘打たれた本書『妖ファンタスティカ』は、『伝奇無双 「秘宝」』に続く操觚の会の伝奇アンソロジー。収録作品は実に十三篇――古代あり幕末あり、新選組あり忠臣蔵あり、怪奇あり艶笑ありと、バラエティに富んだ作品揃いの一冊です。

 単に歴史時代作家たちが集まるだけでなく、積極的にこのジャンルを動かしていこうと、これまでも様々な活動を行ってきた操觚の会。その操觚の会が、伝奇ものの波を起こそうとしています。
 その第一弾が『伝奇無双』であるとすれば、本書は第二弾。『伝奇無双』が「秘宝」をテーマとした七作品から成るのに対し、本書はバラエティに富んだ内容の、十三作品で構成されています。

 これから数回にわたり、その中でも特に印象に残った作品をピックアップして紹介することといたしましょう。


『草薙剣秘匿伝  葛城皇子の章』(秋山香乃)
 山背大兄王が蘇我入鹿に一族もろとも滅ぼされ、次は自分の番と怯える葛城皇子。しかし入鹿の傍らに、入鹿には見えない少年の姿を見た皇子は、山背大兄王の死に疑念を抱くのでした。
 そして真相を知るために蘇我馬子のもとに向かった皇子は、そこで山背大兄王・蘇我入鹿・中臣鎌子の運命を変えたある存在を知ることに……

 『伝奇無双』では『ヤマトタケルノミコト 予言の章』と、やはり古代を題材とした作品を描いた作者の次なる伝奇は、大化改新前夜ともいうべき時代の物語。
 日本史の授業で誰もが学んだであろう有名な事件ですが――本作はその陰に、事件の登場人物たちの奇妙な因縁と、それを操る奇怪な存在を描き出します。

 そんな本作で特に印象に残るのは、むしろ「悪役」となる蘇我入鹿のある種の人間臭さでしょうか。歴史上イメージの固まっている人物にもう一つの顔を与え、あったかもしれない影の歴史を描くのが伝奇の機能の一つであれば、入鹿の秘めた想いを描いた本作には、まさにそれがあります。
(そしてまた、作中で「人に権力をもたらすもの」と呼ばれるものの奇怪な存在感も印象に残るところであります)

 ちなみに本書には、各作品の末尾に作者の言が付されているのですが、作者が伝奇ものを書く時は、古代・平安・鎌倉のいずれかの時代のみでいきたいとのこと。何とも頼もしい宣言であります。


『ころりの木壺』(神野オキナ)
 とある屋敷に招待され、そこで木の壷を真っ二つに斬れば五十両という、破格の依頼を受けた江戸の名だたる剣術家たち。しかし彼らの前で壷はコロリと刀を避け、誰一人として斬ることはできなかったのでした。
 そして江戸で剣術道場を開く湯文字逸四郎のもとにも届いた招待。屋敷に向かった彼がそこで知った奇怪な因縁とは……

 出身地である沖縄を題材とした作品を多く描いてきた作者の作品は、やはりかの地にまつわる呪物ホラー――それも極めて特異な――というべき物語であります。
 達人の一撃を生あるもののように避ける壷とは何なのか、何故それを斬らせようとするのか。そして斬った時に何が起こるのか――様々な時代ホラーを読んできましたが、本作はその中でも屈指のユニークさを誇る作品といえるでしょう。

 正直なところ、作者と時代ホラーはあまり結びつかなかったのですが――これは認識を改める必要がありそうです。


 次回に続きます。


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