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2019.06.18

唐々煙『煉獄に笑う』第10巻 嵐の前の静けさ!? 復活の三兄弟

 長きに渡り続き幾多の犠牲を出した天正伊賀の乱も終結し、呪大蛇を巡る戦いも振り出しに戻った(?)ところで、この『煉獄に笑う』も単行本二桁に突入(ちなみに『泡沫に笑う』と同時発売であります)。再び絆を取り戻した「三兄弟」の前に立ち塞がるの者は果たして……

 抗戦空しく、織田軍の前に伊賀陥落という形で終結した天正伊賀の乱。百地丹波と生き残りの烏たちは姿を消し、藤兵衛を失った国友も勇真がその名を継ぎ、そして安倍晴鳴も姿を消し――と、各勢力も表面上は動きを収め、天下はつかの間の平静を取り戻すことになります。。
 そして曇芭恋と阿国も曇神社に帰り、秀吉の下に戻ってきた佐吉と合わせて三兄弟も無事復活なのですが……

 しかしある意味乱の影響を一番大きく被ることになったのは佐吉であります。前巻で伊賀の生き残りを逃がすため、伊賀側に立って織田軍と戦ったことは、表向きは何となくスルーされてはいるものの、言ってみれば公然の秘密。
 あの魔王信長の小姓(として参戦した身)が、信長の命に逆らった――これは色々な意味で注目されないはずがありません。

 仮に誰かから刺客が放たれても守ってみせる、と豪語するのは芭恋と阿国ですが、早速現れたその刺客は、百地の烏の生き残り・海臣。昼日中から周囲の人々を巻き込んで見境のない攻撃を仕掛ける海臣を相手に戦いを繰り広げる芭恋たちですが……


 天正伊賀の乱の大激戦も終わり、物語的には小休止という印象も強いこの第10巻。史実の上でも大きな戦いのない、ある意味一種の空白期間なのですから、むしろそれは当然かもしれません。
 しかしもちろん、それは物語そのものが停滞しているということではありません。表舞台に立つ者も、地に潜った者も、そして舞台から去った者も――皆それぞれのドラマを抱え、それが様々な形で結びついているのですから。

 特にこの巻で印象に残るのは、激動の展開の連続でそういえばすっかり忘れていた、芭恋と阿国の母・旭と百地丹波の馴れ初め、そして旭の去就であります。
 いかにも曇の人間に相応しい明朗なキャラクターでありながらあの百地丹波と愛し合い、二人の子供をもうけた旭。その彼女の辿った運命は、ちょっと雑ではないかな――という部分もあるものの、しかし人々に誤解され憎まれようとも、その人々のために戦うという芭恋たちの魂が、実は母親譲りであったことがわかるのは、泣かせるところであります。

 そしてもう一人――佐吉の方は、相変わらずの真っ直ぐ石頭ぶりですが、しかしそれが人の心を揺り動かす様はやはり清々しい。
 新たな大蛇候補者かと思われた大谷紀之介も、佐吉の友情パワーの前に己を取り戻し――と、このくだりは、むしろそんな佐吉の姿を見ていた阿国の表情が必見なのですが――何はともあれ、「三兄弟」が再び、実にらしい形でわちゃわちゃしているのを見るのは、実に嬉しいものであります。


 と言いつつも、やはりこれは嵐の前の静けさなのでしょう。この巻のラストで、信長の影武者を務める比良裏が語る地の名は本能寺――そう、あの本能寺であります。
 もちろん史実でも、天正伊賀の乱の終結後数ヶ月で起きたのがあの事件。この巻の描写を見るに、どう見ても大蛇パワーを持っていそうなのは光秀ですが――さて、この物語がそんなに真っ直ぐ進むかどうか。

 確かなのは、いよいよこの物語も佳境に入った――そのことであります。


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