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2019.06.17

手塚治虫『どろろ』 人間性を奪うものへの反逆の物語


 現在放送中のアニメ版もいよいよ終盤ということで、ここで原作の『どろろ』を振り返ってみるとしましょう。言うまでもなく手塚治虫の手になる本作は、昭和42年から43年にかけて「週刊少年サンデー」に、昭和44年に冒険王に連載された時代妖怪漫画であります。

 戦国の世、地獄堂に封じられた四十八体の魔物に対して、もうじき生まれる我が子を生け贄に天下取りの力を求めた醍醐景光。その願いが叶ったということか、、子供は生まれながらにして体の大半の部分を持たず、生まれてすぐに川に流されるのでした。
 偶然それを見つけた医師・寿海によって義手や義足、そして百鬼丸の名を与えられた少年。しかし彼は、その生まれ故か、次々と妖怪を惹きつけ、狙われることになります。

 ついに寿海のもとを離れることとなった百鬼丸。彼は、謎の声の導きで自分の体を奪った四十八の魔物の存在を知り、体を取り戻すために魔物退治の旅に出ます。その途中、自分の刀を狙う自称・天下の大泥棒の浮浪児・どろろにつきまとわれるようになった百鬼丸。百鬼丸とどろろは、二人で当て所なく戦乱の巷を彷徨うことに……


 と、今更言うまでもないあらすじを繰り返してみましたが、今回読み返して改めて感じるのは、やはり百鬼丸の設定の面白さ、巧みさであります。

 何かと引き替えに超自然的な存在に体の一部を奪われるというのは、これはある種普遍的なモチーフかもしれませんが、しかし――これは私の不勉強かもしれませんが――ほぼ全身の全ての箇所を奪われ、そして奪った者を倒すたびにそれを取り返していくというのは、やはり本作が嚆矢ではないでしょうか。
 そしてその特異すぎる設定が、百鬼丸というキャラクターの個性と特殊能力、そして動機付けを同時に成り立たせているのには、感心するほかありません。

 そして登場する魔物たちも、そのほとんどが民俗的バックボーンを持ったキャラクターとしての「妖怪」とは異なる、不気味な怪物揃いなのが目を引きます。
 そんな百鬼丸と魔物たちの、ある種の怪物同士の戦いは、戦乱が打ち続き荒廃しきった室町後期の世界のある種象徴じみたものであり――そこにさらに荒んだ人間たちのドラマが絡み合う様は、今読んでも全く遜色ない面白さであります。

 ……といっても、それはあくまでも伝奇ファン、怪奇ファンとしての目線であって、当時の少年漫画の読者にとってみれば、やはりこの内容は不気味であり殺伐としすぎていただろうなあ――というのも正直な印象(時折差し挟まれるナンセンスギャグが、普通に少年漫画しているのも強烈な違和感)。
 少年サンデー連載版の終盤、どろろの背中に記された財宝の在処を巡り、一つの島(岬)を舞台に野盗や武士、魔物までが入り乱れて大乱戦を繰り広げる展開など、非常に盛り上がるのですが……

 なにはともあれ、よく知られているように、実質二度に渡って中途で終わったような扱いとなっているのは、大いに勿体ないとしか言いようがない一方で、それもやむなし――というより、そこに至るまでの経緯はさておき、今のそれ以外のどのような結末が描けたかわからない――という気もいたします。


 さて、こうして見比べてみると、現在放送中のアニメが想像以上に原作を巧みに換骨奪胎していることがよくわかるのですが――しかし、やはり原作にあった百鬼丸のキャラクターが変えられてしまったのは、実に勿体ない、という印象があります。
 不敵で不屈の闘志を持ち、そして常に斜に構えたような態度を見せながらも実は熱血漢――という原作のキャラクターは、これはこれで一種のヒーローの類型かもしれません。しかしそれが百鬼丸独特の設定と結びついた時、残酷な運命に立ち向かう――いや食らいつく「人間」の生命力というものを、強烈に感じさせるのであります。

 そしてそれが、生まれや育ちこそ違え同じ強烈な生命力を持つどろろと共鳴し、物語で繰り返し描かれる反権力のモチーフと結びついた時に生まれる一種の反骨精神は、今の目で見ても、いや今この時代に見るからこそ、力強く好もしく感じられます。。
 もちろんこれはこれで「時代性」というものかもしれません。しかし、本作の根底にあるのが人間性を奪うものへの怒りであり、そしてそれに対する反逆を体現するのが、百鬼丸のあのキャラクターである――というのは、決して牽強付会ではないと感じるのであります。

『どろろ』(手塚治虫 講談社手塚治虫文庫全集 全2巻ほか) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
どろろ(1) (手塚治虫文庫全集)どろろ(2) (手塚治虫文庫全集)


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