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2019.06.22

梶川卓郎『信長のシェフ』第24巻 大坂湾決戦の前哨戦にケン動く


 近づきつつある「その時」に向け、歴史を変えるために動き出したケンの奮闘はまだまだ続きます。この巻は丸々一冊かけて、織田と毛利の大坂湾決戦――木津川口の戦いの前哨戦というべき内容が描かれます。強敵の仕掛ける様々な策に対して、ケンは信長から意外な役割を命じられることに……

 歴史を変えて信長を救うため、不確定要素というべき最後の現代人を探すケン。どうやら四国の三好長治に仕えていた料理人が彼らしいと知ったケンですが、しかし中国四国は、織田と激しく敵対する強敵である毛利の勢力圏。特に海は、毛利と組んだ最強の村上水軍の支配下であります。

 そんな中、信長がケンに命じたのは――堺の商船の、その護衛の船に飯を振る舞うという謎のお役目。
 護衛というにはどうにもガラの悪い、どう見てもアレな感じの連中が(嫌がらせのために)持ち込む様々な食材を文字通り捌き、彼らの長にも気に入られたケンですが……

 と、言うまでもなく、その彼らこそが――なのですが(古今東西の料理には異常に詳しいケンも、この歴史知識は持っていなかったのか、とちょっと微笑ましい)、そんなところに自ら現れた信長の言葉が実に格好良い。
 いかにも本作の信長らしい、一歩間違えれば誇大妄想のようでいて、しかし先見の明がありすぎるその言葉に――現実の信長がそうであったかはさておき――ケンならずともKOされてしまうのはよくわかるところであります。

 しかしこのミッションの最中、これで料理を作ってみろとウミガメを差し出された時のケンの嬉しそうな顔たるや……


 さて、それもこれも信長が勝利した暁のことですが、しかしその彼の前に今立ち塞がっているのは、何度も繰り返すように毛利――あの元就にも負けぬ俊傑・輝元であります。

 そしてその輝元を謀略で支えるのは、小早川隆景――養子のおかげでいまいちイメージがよろしくない隆景ですが、しかし本作の隆景は、実にシブく格好良い。
 決して正面からの力押しではなく、信長を倒すために最も有効な手段は何か――それを見定めて、着々と布石を打っていくその姿は、本作にはこれまでいなかったタイプではないでしょうか。

 そしてその隆景の策の一つが、ある意味最も定番である調略、すなわち寝返り工作。そしてここでそれに引っかかって信長を裏切ったのが誰であるか、それは史実を知る我々にとっては、一目瞭然であります。
(あまりにもダメ人間なので、少しは裏があるかと思ったら本当にダメ人間だった……)

 しかし信長にとってはそれが誰かわかるはずもありません。内通者がいるらしい、とまではわかったものの、果たしてそれが誰なのか、肝心なところでわからない――とくれば、ケンの出番です。
 正直なところ、信長が前線で戦っていた頃の方が普通(?)の任が多かったケンですが、信長が隠居して身軽になってからは、無茶なミッションが増えた気がする――というのはさておき、今回の任務は内通者探しであります。

 内通者と結んで、本願寺に米を運び込んでいるのが川筋衆――川を使う運輸業で生計を立てている人々――と知り、彼らの元に向かうケン。
 しかし彼らは元々、本願寺の仕事を引き受けて暮らしていた人々であり、その本願寺を包囲して仕事を奪った信長はむしろ敵であります。そんな彼らの心を開くことができるか――おお、ケンの仕事らしくなってきました。

 ここでケンが繰り出すのが、料理としての見事さはもちろんのこと(この巻で一番おいしそう!)、川筋衆の身を立てるという点でも理にかなったのが楽しいところ。
 そしてここからさらに内通者を炙り出すためにケンが持ち出したのは――FSR!? 確かに戦場めしではありますが、と戸惑っていれば、それを使った策もなかなか面白くで、いやはやケンも人が悪くなったものだ――と妙なところで感心させられるのです。


 と、冒頭に述べたとおり丸々前哨戦、歴史の表面上はまだ何も起きていないだけに、地味といえば地味なのですが――ケンの料理の面白さと使いどころの巧みさはもちろんのこと、歴史上の人物解釈・描写の面白さもあって、この巻もしっかりと読まされてしまいました。。
 しかしいよいよ木津川口の戦い――歴史が大きく動くことになります。そして木津川口の戦いといえば、信長のあの船が登場するはずですが――本作でそれがただの船であるとは思えません。それも含めて、今から次の巻が楽しみなところであります。


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