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2019.06.21

森野きこり『妖怪の子預かります』第1巻 違和感皆無の漫画版

 ほぼ時を同じくして原作第8作が刊行された廣島玲子の人気妖怪時代小説シリーズ『妖怪の子預かります』――本作はその第1作を、『明治瓦斯燈妖夢抄 あかねや八雲』の森野きこりが漫画化した第1巻であります。

 故あって盲目の美青年・千弥と長屋で暮らす少年・弥助。ふとしたことから、森の中にあった石を割ってしまった彼は、突然烏天狗に捕らえられ、妖怪奉行所の奉行・月夜公の前に引き出されることになります。
 実は弥助が割った石こそは、妖怪たちの子を預かってきたうぶめが棲む石。しかし住処を壊されたうぶめはどこかへ消えてしまい、妖怪たちは怒り心頭というのであります。

 その罰として月夜公から、うぶめの代わりに妖怪たちの子を預かるよう命じられ、長屋に返された弥助。その晩から、弥助のもとには次から次へと奇怪な妖怪たちが現れ、子供をを預けていくことになります。
 子供といっても妖怪、奇怪な姿や能力を持つ彼らたちを前に、奮闘する弥助ですが……


 と、今となってみれば実に懐かしいあらすじの原作第1作を漫画化した本作。妖怪時代小説は数あれど、その中でも妖怪の子を預かって育てるという極めてユニークな設定は、今見ても新鮮であります。

 本作はその第1作を、原作に非常に忠実に漫画化。おしゃべりな梅の子や、人の血を餌にする百匹以上の小魚、人の髪を食らう鋏の精、さらには人語を解する巨大な鶏の卵まで――妖怪たちは伝承などに基づかないほぼ本作オリジナルながら、しかし実に面白くも不気味なその姿と生態は、存在感十分であります。

 そしてその妖怪の子たちを預かることになってしまった弥助は、過去のある体験がきっかけに、千弥以外の他人とはほとんど喋れないという少年。
 その彼が、子預かりで奮闘する中で、徐々に成長し、他者とのコミュニケーションに目覚めていく――というのは、ある種お約束ながら、その苦労が並みでないだけに説得力十分なのであります。


 さて、これらの点はもちろん原作由来ではありますが、本作はそれを、原作に忠実に、漫画として再現してみせます。いや、忠実というよりも、むしろ全く違和感なくと言うべきでしょうか。
 元々原作の挿絵はコミックタッチであり、本作もそれをベースとしたものではあるのですが――しかし本作はは、原作既読者をして「あれ、最初から漫画作品だったかしら?」と思わしめるほどの完成度。違和感仕事しろ、という言葉がありますが、本作はまさにそれであります。

 いかにも子供らしく活発さと可愛らしさを感じさせる弥助、彼を溺愛する(いかにもわけありの)盲目の超美形・千弥、そして数少ない人間のレギュラーである遊び人の久蔵――そしてもちろん妖怪たちに至るまで、この漫画版に登場するのは、まさしくファンが原作で親しんできた彼ら。
 上で述べたとおり、デザインは原作のものを踏まえているのだから当たり前――と思われるかもしれません。しかし漫画として作中で彼らが動き回っても、その違和感のなさは変わらない――というより、むしろより際だって感じられます。

 そしてそれはもちろん、この漫画版を担当する森野きこりの画の力によるところであることは言うまでもありません。
 人の世と妖の存在が重なり合うところに生まれる世界を描いた『あかねや八雲』の作者であるだけに、本作においても原作が本質的に持つほの暗さ、恐ろしさを漂わせつつ、漫画としての絵や動きの楽しさを見せてくれるのは、期待以上のコラボレーションであったと言うべきでしょう。


 こうなったら、人気キャラである二人の姫君が登場する原作第2作、千弥とあるキャラクターのあまりにエモすぎる過去が描かれる原作第3作も、ぜひ漫画化してほしい! ……などと、気が早すぎることすら考えさせられてしまうこの漫画版。

 まずは第1作のクライマックスである――様々な隠されていた真実が描かれるであろう――第2巻を楽しみに待ちたいと思います。


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