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2019.07.18

青木朋『土砂どめ奉行ものがたり』 史実とファンタジーで描く人間と自然の和合の姿


 中国ものを得意とする青木朋が、江戸時代の農村を舞台として描く物語――江戸時代、土砂崩れなどを防止するために木の伐採などを取り締まる土砂留奉行の奮闘を、ファンタジー要素も交えつつ描いたユニークな作品であります。

 木の伐採や草刈りなどによって山がはげ山となったことにより、土砂崩れや洪水が頻発していた江戸時代。これを重くみた幕府は土砂留令を出し、山での木の伐採を取り締まり、護岸工事などを行うこととするのでした。

 そしてその任についたのが、土砂留奉行――本作の主人公・稲田守弥であります。早速担当の地域に赴き、農民たちを指導する守弥ですが、しかし土砂留の負担は全て農民。当然のことながら、彼らは大きく反発することになります。
 その中でも、村の若き長者である利兵衛は反対の急先鋒。かつて山で幼い弟を事故で喪った彼は、守弥の言葉も聞かず、ひたすら金儲けに邁進するのですが……


 先日発売された「歴史街道」誌の細谷正充「子供や孫にすすめたい「歴史小説&マンガ」24 」という記事で紹介されていた本作。
 このことからも察せられるとおり、本作は子供にも非常にわかりやすい、学習漫画と読んでもよいタッチで描かれた物語なのですが――しかし絵柄は可愛く、展開はコミカルであっても、内容の方は、あくまでも丁寧に史実を踏まえた本格派であります。

 そもそも、江戸時代には森林資源の管理が行われていなかったことから、際限ない伐採によってはげ山が増加し、それに伴い災害が頻発していた――という、ベースとなった史実が興味深い。
 そう、本作は「江戸時代は自然と共存し、自然を大事にしていた」と、何となく共有されている思いこみを完膚なきまでに叩き壊し、そこから文字通り地に足が着いた物語を描いていくのであります。

 しかし、江戸時代に土砂留令のような自然保護と環境回復の思想があったのには感心させられますが、これは農民に対する一方的な申し渡しであり、幕府側では経費の負担等を行わない点で、(今の目で見れば)大きな欠点があります。
 本作でも、土砂留を推進しようとする守弥の重い自体は純粋なものではありますが、しかしこの欠点に目を瞑り、農民に強制する時点で、やはり時代の制約から逃れられていない状況にあるのです。

 そしてそんな彼の矛盾を突く、農民のロジックを代表するのが、農民側の主人公――というより本作の中盤以降の実質的な主人公と言うべき利兵衛であります。
 欲に駆られて山の神木を伐ったことにより、祟りで仲間を、そして弟の命を喪いながらも、そのためにかえって金儲け優先の守銭奴となってしまった利兵衛。そんな彼にとって、土砂留は金儲けの機会を奪うものであり、ことごとく守弥の命に逆らうことになるのです。

 この彼の行動はさすがに極端かもしれませんが、しかし当時の農民たちがあの手この手で取り締まりを逃れようとしたであろうことは容易に想像がつくところで、農民たちのある種のリアルを、彼は背負っていると言えるのでしょう。


 さて――このようにある意味生真面目な本作をここで取り上げているのには、一つ理由があります。それは冒頭で述べたように、本作にはファンタジー――というより民話的要素が随所に織り交ぜられているためなのです。

 実は守弥は、生まれつき人ならざるものを見ることができる人物。それ故、利兵衛の行いに怒る山神や、兄を心配してこの世に留まる利兵衛の弟の霊などの存在を知り、時にその協力を得て、自らの任を進めていくことになります。
 そして物語中盤から大きな役割を果たすのが、彼にくっついてきた狐のお紺であります。こともあろうに垣間見た利兵衛に一目惚れしてしまった彼女は、人間に化けて彼の屋敷の下働きとなり、物語の台風の目となるのです。

 この辺りは、ややもすれば重い内容になりかねない本作に対するユニークなアクセントであることは言うまでもありません。しかし同時に、狐――人間に比べ遙かに天然自然に近い存在――と人間が、紆余曲折を経てその距離を縮めていく姿は、本作が描く人間と自然の共存、和合の姿を体現しているとも感じられるのです。
 物語後半にはちょっと存在感が薄れていた守弥にも(とんでもない)真実があって、楽しい気分で物語は終わるのですが――これもまた、その和合の姿の一つと感じます。


 江戸時代のシビアな現実を、楽しくも美しいファンタジーで包んで描いてみせる――子供から大人まで楽しめる佳品です。


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