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2019.08.01

たかぎ七彦『アンゴルモア 元寇合戦記』第9-10巻 史実の壁の前に立ちすくむ者たちへ


 いよいよ新章である『博多編』が刊行開始された『アンゴルモア 元寇合戦記』。しかし本ブログではまだその前章のラスト2巻を取り上げておりませんでした。今更ではありますが、新章紹介の前に、第9巻・第10巻をご紹介いたします。

 対馬に押し寄せる蒙古軍に対し、金田城に拠って抵抗する朽井迅三郎ら流人たちと宗家残党、刀伊祓。奇策を以て圧倒的な大軍に対して抵抗を続けてきた迅三郎たちですが、裏切り者も出る中で次第に切り崩され、そして(彼らは知らぬことながら)頼みとしていた博多からの援軍も送られず、ついに追い詰められることとなります。

 そして始まる最後の戦い。己のためだけでなく、誰かのために戦うことを知った迅三郎とともに一所懸命の想いで戦う対馬の人々ですが――しかし現実は残酷であります。
 刀伊祓を率いる長嶺判官が、共に戦ってきた流人の生き残りである導円・火垂が次々と斃れ、そして人々が次々と無惨な最期を遂げていく中、最後の希望であった迅三郎までもがテッポウに吹き飛ばされて海中へ……


 という第9巻の展開ですが、実はこのラストの部分は、本作の冒頭部分――第1巻の冒頭で描かれたもの。ようやくそこに物語は帰ったわけですが――もちろんこの先があります。
 ついに全ての防壁が崩れ去り、蒙古軍の前に無力のまま投げ出され、蹂躙される対馬の人々。そして頼みの迅三郎を失った宗家の輝日姫も、意外な運命を辿ることになります。

 正直なところ、これまで懸命に蒙古軍を食い止めてきたものが、まるで箍が外れたような勢いで潰走し――戦いとはそういうものだと言えば確かにその通りなのだとは思いますが――次々と登場人物たちが命を落としていくこの辺りの展開は、ひたすら辛い、の一言。
 特に輝日姫の侍女・鹿乃の辿る運命は、その直前の凄まじい行動も含めて、ひどく重い気分にさせられるのであります。

 もちろん、それは史実というものの厳然たる壁というべきものでしょう。たとえどれほど辛くとも悲しくとも、決して歴史の結果を変えることはできない――それを許せばそれはもはや歴史ものではないのですから。
 恥ずかしながら正直に申し上げれば、これまでこのラスト2巻を紹介してこなかったのは、その史実のあまりの残酷さに辟衛してしまったから、というほかないのですが――しかしそれはもちろんこちらの不見識と言うべきでしょう。

 なぜならば、そこで描かれているのは、敗北という結果でけはなく、歴史の余白に描くことを許されたもの――敗北という結果に揺るがされない、守る者たちを失ってなお、その存在を背負って戦おうとする者の、者たちの姿なのですから。
 それはもちろんある種の夢物語に過ぎないかもしれません。しかしそれでも、史実の壁の前に立ちすくむ者にとって、それは大いなる救いであり――そしてそれを描くことも、歴史ものの一つの意味であることは間違いないのではないでしょうか。

 あるいは本作はそんな物語はでなかったか、そしてその象徴が、朽井迅三郎という男なのではなかったのか――今読み返してみて、改めてそう感じた次第です。


 もちろん、それはその戦いの姿が、最後まで描かれてこそ初めて意味を持つものでしょう。だからこそ――この先の物語を、『博多編』の展開を、楽しみにしているのであります。


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