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2019.07.05

石川優吾『BABEL』第4巻 巨大な魔との戦い、そして驚きの新章へ


 『南総里見八犬伝』をベースとし、作者一流の精緻な画でもって新たな八犬伝を描く『BABEL』第4巻であります。邪悪な怪人・扇谷定正の支配する佐倉城で新たな珠を持つ男・現八と出会った信乃。しかしそこで姿を現した定正の正体とは何と……。そして物語は予想もしなかった新章に突入いたします。

 里見家を奇怪な闇から救う八つの珠を求めて旅にでた信乃たち。最初に訪れた佐倉城で、信乃は定正の闘技場最強の男・現八と芳流閣で決闘することになります。
 敗れた信乃が城に囚われた一方で、自由を得た現八が十数年ぶりに帰った故郷で知ったのは、奇怪な魔物によって村人全てが食われたという事実。そしてそこで己の珠を得た現八は、佐倉城に舞い戻ることになります。

 折しも信乃が処刑されようとする時、駆けつけた現八によって倒される定正。しかしその体から飛び立ったのは無数の蠅。そしてそれが集まって現れたのは巨大な蠅の魔物――大食を象徴するベルゼブブ!

 ……なるほど、八つの珠に抗する者はと思えば、こう来たか! というこの展開。八つの徳目に対して、七つの大罪を持ってくるとは驚くほかありません。
 しかし相手が伝説の堕天使とすれば、人間たちにとってはあまりに分が悪い。たとえ珠の力があっても、信乃の言葉が城の人々を奮い立たせようとも、現八の怒りの力があろうとも――あまりに強大な敵に如何に挑むのか? 佐倉城編のラストに相応しい死闘が描かれることとなります。


 そしてその激闘の興奮覚めやらぬ中、この巻の後半から突入する新章の舞台となるのは――何と南国。その中心となるのは、薩摩の下士と覚しき犬田家の下人・小文吾(!)であります。

 島津家で行われた犬追物で逃げ出した犬を追いかることとなった小文吾。しかし彼が見つけたその犬は、「我を助けよ」と彼に語りかけてきたのであります。
 心優しき主夫婦の協力で、犬を匿うこととなった小文吾。しかしそれを知った残忍な薩摩侍たちによって主夫婦は惨殺され、崖から海に転落した小文吾と犬。彼らが辿り着いた先とは……


 信乃・荘助・現八とくればやはり次は小文吾――というところですが、ここで舞台がいきなり薩摩と屋久島に飛ぶのには、冒頭から驚かされっぱなしの本作においても、ある意味最大の驚きであります。

 もはや南総でも里見でもありませんが(もっとも本作はタイトルにその二つを謳ってはいないわけですが)、八犬伝で南国というのは、かの『新八犬伝』も通った道であります。
 あちらは『椿説弓張月』を取り入れたから――というのはさておき、本作に登場する八犬士の敵の正体と出自を考えれば、もはやこの国のどこが舞台となってもおかしくないということなのでしょう。
(ちなみに本作の小文吾は、小太りの体型に太い眉と丸い目という、何だか西郷さんをイメージさせる造形ですが――その辺りの連想もあるのかしらん)

 もはやこの先の物語がどう展開していくのか、見当もつきませんが――まずは第三の八犬士(であろう男)の冒険の向かう先と、それがどのように信乃たちの旅と繋がっていくのか、本作らしい奇想天外な物語を期待するとしましょう。


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