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2019.07.11

さいとうちほ『VSルパン』第1巻-第3巻 ロマンスで切り取ったアルセーヌ・ルパン伝


 誰もが知る怪盗アルセーヌ・ルパン――しかし、その怪盗たる所以か、ルパンは描く者によって様々な姿を見せることになります。本作はルパンを少女漫画として――ロマンスの側面を強調して描く作品。そしてそれもまた、確かにルパンの顔の一つなのであります。

 ある日、ヴァンドーム公爵家に舞い込んだルパンからの手紙。それは、公爵の一人娘・アンジェリックとルパンの結婚を宣言するものでありました。もちろん公爵にもアンジェリックにも身に覚えはないものの、ルパンの巧みなマスコミ攻勢によって婚約は既成事実化してしまうのでした。
 これに対して公爵は三人の花婿候補を選び、アンジェリックと結婚させてしまおうとするのですが……

 という第1話「プリンセスの結婚」から始まる本作ですが――ルパンファンほどこのチョイスには驚くのではないでしょうか。
 というのもこの第1話のベースとなっているのは『ルパンの告白』に収録されている短編『ルパンの結婚』。簡単に言ってしまえば、ルパンが結婚詐欺を働こうとするお話なのですから。

 しかもその相手であるアンジェリックは、33歳で、読書をしている時間が一番幸せなオールドミス。容姿も決して優れているわけではなく――と、ルパンよ、いくら犯罪でもやっていいことと悪いことがあるだろう、と言いたくなってしまう内容なのであります。
 が、しかし本作の面白さは終盤のあるドンデン返しなのです。公爵をまんまと欺き、懐に入り込んだものの、ちょっとしたミスから追い詰められたルパン。窮地の彼を救った者は、そしてその相手に対してルパンは……

 と、できすぎといえばできすぎなのかもしれませんが、盗みに入ったルパンがまんまと心を盗まれてしまう――というお話は、なるほど実にロマンチック。
 ヒロインであるアンジェリックの造形も個性的かつ魅力的で、なるほどこれは少女漫画に向いているわい――と、作者の炯眼に感心させられるのです。


 そしてこれ以降も、本作は原作の様々なエピソードをピックアップして展開していくこととなります。

 『伯爵夫人の黒真珠』『王妃の首飾り』『カリオストロ伯爵夫人』『結婚指輪』――そしてその中で中心となるのが、唯一の長編である『カリオストロ伯爵夫人』なのですが、しかしそれに合わせて前後の物語がアレンジされているのも面白いところであります。
 というのも、ルパンの最初の犯罪を語る『王妃の首飾り』――本作では、そこで原作には登場しない『カリオストロ伯爵夫人』のヒロインの一人・クラリスを登場させ、ここでルパンと彼女の出会いを描いているのです。

 こうして『王妃の首飾り』をプロローグとしてスタートする『カリオストロ伯爵夫人』は、マリー・アントワネットがカリオストロ伯爵に明かしたという4つの謎の一つ「七本枝の燭台」の秘密を巡る物語。
 ルパンが謎の美女・カリオストロ伯爵夫人や王党派の結社を向こうに回して繰り広げる初期の冒険なのですが――しかしこの作品もまた、ロマンス(というか愛欲)の香りが濃厚に漂う物語であります

 このエピソードも、原作ではルパンは結構(女性に対して)どうしようもない奴なのですが、しかし本作はその印象を巧みにアレンジし、同時に物語の骨格は外さずにダイジェストしてみせます。
 そして悪女・妖女としかいいようがないカリオストロ伯爵夫人も、母と父の影に縛られた悲しい存在としての側面を描いている(なお、本作に収録されたエピソードには、「親と子」というモチーフにまつわるものが多いのも一つの特徴であります)のも、印象に残るところであります。


 しかし、このロマンスによって独立した原作のエピソードを巧みに繋げてみせる本作の真骨頂は、第3巻のラストに収められた『ルパン誕生』でしょう。
 本作の中では非常にオリジナル度が高い(というより原作の隙間を埋めたという形の)このエピソードで描かれるのは、『カリオストロ伯爵夫人』のエピローグと言うべきある悲劇と、そして原作で最も名高いあのエピソード(そしてそれは『カリオストロ伯爵夫人』とある一点で繋がるのですが)のプロローグなのですから。

 そしてそこで同時に、そのタイトル通りの「ルパン誕生」――ルパンが怪盗紳士として劇場型犯罪を繰り広げるその理由を、本作ならではのものとして示してみせるのですから、もう感嘆するほかありません。
 季刊誌での連載ゆえ、刊行ペースは早くありませんが、次なる展開が大いに気になるアルセーヌ・ルパン伝であります。


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