畠中恵『つくもがみ笑います』 悪の親玉登場!? そして人間とつくもがみの新たな関係
今年はシリーズ第1作がアニメ化された畠中恵のつくもがみシリーズ。その実に6年ぶりのシリーズ第3弾であります。清次とお紅の子・十夜も十代半ばの少年となり、つくもがみたちも賑やかな毎日を過ごしている出雲屋に現れた謎のつくもがみと悪の親玉。十夜とつくもがみの新たな冒険が始まります。
深川の損料屋・出雲屋を舞台に、店に住みついたつくもがみたちと、人間たちの引き起こす騒動を描いてきた本シリーズ。
シリーズ第1弾『つくもがみ貸します』ではまだ結ばれていなかった清次とお紅も、第2弾『つくもがみ、遊ぼうよ』では一人息子の十夜を得ましたが、初めは人間たちに極めてよそよそしかったつくもがみたちも、十夜たち人間の子供と仲良くなるなど、ずいぶんと丸くなりました。
そして本作は、前作から数年後を舞台として、十五歳という、もうこの時代では大人の仲間入りとなる十夜が主人公となるのですが――これまでとはまた変わった、つくもがみと人間の物語が描かれることになります。
ある日、よそに貸し出されるはずが、何処かに拐かされてしまった出雲屋のつくもがみたち。連れ込まれたどこかの家の中で待ち受けていたのは、彼らとは別のつくもがみ――小刀ののつくもがみ・阿真刀をはじめとする面々と出会うことになります。
人間からの自由を勝ち取るための戦に手を貸せという阿真刀に対し、当然ながらこれを断る出雲屋のつくもがみ。しかしつくもがみたち同士の対立はエスカレートし、ついに正面切ってのバトルが勃発することに……
という第1話「つくもがみ戦います」に始まる本作。第1話のラストには、十夜を「兄さん」と呼ぶ少年・春夜が登場し、不穏なムードが高まることになるのですが――続く第2話「二百年前」では、とある武家が持ち込んだ、つくもがみと化した将軍拝領の屏風の中に入り込んだつくもがみたちが、そこに描かれていた二百年前の江戸を舞台に大暴れする姿が描かれます。
そして第3話「悪の親玉」には、春夜の養い親であり、題名通り悪の親玉を自称する男・阿久徳屋が登場。彼によって十夜たちはさる大名屋敷の幽霊騒動に巻き込まれることになります。
さらに第4話「見つかった」では、十夜と春夜が何故か武家たちに狙われ、そして第5話「つくもがみ笑います」では、ある巨大な使命を背負って生み出された謎のつくもがみを巡る暗闘が勃発し――と、バラエティー豊かな物語が展開するのであります。
さて、最初に触れたように、第1作では人間とは壁を作っていたつくもがみたちも、第2作では十夜の友だちとして賑やかに動き回り、人間との関係性を大きく変えてきました。そして本作においては、その関係性はまた別の方向に変わっていくことになります。
実は、本作がこれまでと大きく異なる点の一つは、十夜たちと武士の――武家社会の関わりが多くなるところにあります。
もちろんこれまでも、シリーズ第1話の冒頭のように、物語に武士は登場していました。しかし本作では、武士たちの間につくもがみたちの存在が広く知れ渡る、いや、武士たちがつくもがみたちを求めることになるのです。
この辺りはちょっと話が広がりすぎでは――と心配になるのですが、しかしこれは、本シリーズの特徴の一つである、時の流れを象徴するものなのかもしれません。
第1作ではまだ存在もせず、第2作では子供で、本作でようやく大人の仲間入りをしようとしている十夜。そんな時間の流れを、彼にとっては「外側」である武士の世界との関係性の変化が示しているのでは――というのは、穿った見方でしょうか。
が――正直なところ、本作ではそうした一種の感慨も簡単に吹き飛ばされてしまうのが、長所でも短所でもあります。その理由は阿久徳屋――両国一帯を仕切る顔役であり、自称「悪の親玉」として貫禄十分でありながら、妙な茶目っ気を持ったユニークなキャラクターの存在であります。
実に、十夜の成長や十夜と春夜の出自など、色々と気になる要素はあるものの、本作においては阿久徳屋の存在が全てを持っていった、という気がいたします。。口で言うような悪玉というより食えないおっさん――一種の大人の象徴である彼は、あまりにパワフルかつ魅力的で、読み終わって印象に残るのは彼の存在ばかり、というのが否めないのであります。
物語はもちろん面白く、趣向も十分、そして登場人物が魅力的なのは何よりですが――いささか一人のキャラクターが前面に出過ぎたのは、ちょっと残念であったかな、というのが正直なところなのです。
『つくもがみ笑います』(畠中恵 KADOKAWA) Amazon

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