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2019.08.29

忠見周『竜侍』第1巻 正真正銘!? 紅蓮の竜、時代劇世界を往く


 同日に『幕末イグニッション』第1巻も発売された忠見周もう一つの時代活劇は、恐るべき腕前を持つ謎の侍の物語であります。各地を放浪しては、涙に暮れる人々を助けて悪を斬る、その名は「紅蓮の竜」――果たしてその驚くべき正体とは!?

 時はおそらく江戸時代――各地で噂が流れる謎の剣士がおりました。長大な一本差しと真紅の襟巻きを目印に、その風貌ととてつもない強さから、ついたあだ名が「紅蓮の竜」であります。

 今日も、凶悪な盗賊団に両親と店の者たちを殺された姉弟が、仇を討とうとするも返り討ちに遭おうとしている場に、三度笠の旅姿で飄然と現れた紅蓮の竜。
 絡んできた三下たちをあっさりと叩きのめしたものの、盗賊の頭領の卑怯な手段に三度笠を吹き飛ばされたその下から現れた顔は……

 竜、というより恐竜。
 そう、噂は正鵠を射ていたと言うべきか――紅蓮の竜の素顔は、爬虫類の瞳に耳(?)まで裂けた巨大な口、トサカのような羽毛と強靱な尻尾――彼は侍の格好をした二足歩行の竜、まさしく竜侍だったのであります!


 というわけで、譬えではなく本当にタイトルどおりに(恐)竜が侍という、直球ど真ん中の作品だった本作。
 恐竜が出てくる時代ものというのは実は絶無ではないのですが(それはそれで凄い事実ですが)、しかしここまでストレートな主人公というのは、さすがに見たことはないように思います。

 しかしこれはインパクトが絶大であるだけに、一歩間違えれば一発ネタで終わりかねない危険性があります。
 ……が、本作は短編連作。この第1巻には、上に述べた第1話を含め、全7話が収録されています。

 壁蝨のような父親につきまとわれる町娘の恋を助ける竜侍。不老不死をもたらすという竜の心臓を狙うくノ一を迎え撃つ竜侍。盗賊団に雇われた凄腕の浪人剣客と対決する竜侍。悪人に狙われる剣術道場を守る娘と門弟を助ける竜侍。同心だった父のようになろうとする少年に謎を探られる竜侍。同門の仲間とともに再び襲い来るくノ一と対決する竜侍……

 と書くとヒーローじみていますが、実際には何を考えているのか全くわからず、ただ好物の団子のために行動していたら、その過程で何となく人助けをしたり、悪人を成敗してしまう竜侍。
 しかしそんな本作の基本構造が、実に時代ものにありそうなものばかりの各話のシチュエーションと組み合わさるとき、絶妙の味わいが生まれます。

 時代ものの定番の中に、とんでもない異物(そう、竜侍はこの世界においてもあくまでもあり得べからざる存在なのであります)を放り込んだらどうなるか――本作はそれを丹念に、真っ正直に描いてみせた、何ともユニークな物語なのであります。


 果たしてこの先、本作はこのような形で竜侍が定番を粉砕していく姿を描くのか、はたまた新たな竜侍自身の物語が描かれることになるのか――それは全くわかりませんが、その向かう先を見届けたくなる作品であることは間違いありません。


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