さいとうちほ『VSルパン』第4巻 水晶の栓と赤い絹のスカーフ 長短二編の名作
怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの活躍を、少女漫画としてロマンスの香り高く描く『VSルパン』待望の第4巻であります。この巻に収録されているのは、『水晶の栓』と『赤い絹のスカーフ』――長編と短編と趣向は違えど、いずれも人気の作品を、本作はどのように漫画化したのでしょうか……?
『カリオストロ伯爵夫人』を巡る冒険の果てに、愛するクラリスを病で失い、そして二人の間に生まれた息子ジャンを夫人に奪われたルパン。
その心の穴を埋めるために盗賊稼業に精を出す彼は、悪徳代議士ドーブレックの別荘に押し入るのですが――そこで部下のジルベールらがトラブルを起こした末、捕らえられてしまうのでした。
死刑宣告が下されたジルベールを救うため、彼が暴走するきっかけとなった思しき、別荘にあった水晶ガラスの水差しの栓を手にするルパン。しかしその水晶の栓は謎の女性に奪われ、ルパンはそれがジルベールの母・クラリスであることを知ります。
ドーブレックによって疑獄事件に関係したとして自殺に追い込まれた夫の仇を取ろうとしていたクラリス。そして水晶の栓とは、ドーブレックが持つ、事件の関係者たちの名が記されたリストの隠し場所だったのです。
ルパンはジルベールを救い出すためにドーブレックと対決し、本物の水晶の栓を、リストを見つけ出すことを決意するのですが……
ルパンシリーズの長編作品の中では、冒険もの・伝奇もの的味わいは薄い『水晶の栓』(「古塔の地下牢」のくだりはそれっぽいところではありますが)。その代わりといってはなんですが、本作はサスペンス色の強い――そして言うまでもなくミステリ色の強い物語であります。そしてロマンスもまた。
現実にフランス政財界を騒がしたパナマ運河疑獄事件を背景に、その秘密が隠された「水晶の栓」を巡り、ルパンと奸悪極まりない悪党が丁々発止の戦いを繰り広げる――いやむしろ、ルパンの方が幾度も出し抜かれ、窮地に追い詰められる本作。
しかもそこに部下の死刑執行というタイムリミットまでが加わるのですから、否が応でも盛り上がるのであります。
そしてその悪役・ドーブレックの、代議士の顔の陰で数々の悪事を働き、件のリストで弱みを握った相手を強請り苦しめるというキャラクターは、実に厭らしく憎々しい、そして生々しい悪人像として印象に残ります。
それに加えて(?)小肥りに長髪、その下の目を隠した二重眼鏡と、何ともいえないビジュアルのこの男が、かつて振られたクラリス未亡人を追い詰め、心身ともに屈服させようとする辺りは、ロマンスものの敵役にまことに相応しいと言えるでしょう。
そしてこのロマンスものという側面で光るのは、本作のヒロインの名もまた、クラリスという点であります。
もちろんこれは偶然の一致に過ぎませんが、しかし愛妻クラリスと息子を失ったルパンが、同じ名の女性とその息子を守るため、ドーブレックに戦いを挑む――というのは、一種の騎士道精神が感じられるではありませんか。
もっとも、その点については、ある意味ラストで裏切られるのですが、これはこれでリアルさがあるというか、ルパンってこんな男だったなあというか……
そして短編『赤い絹のスカーフ』は、切れ味のよい短編ミステリとして評価の高い一作。
ルパンの宿敵・ガニマール警部が不審な行動を取る男たちを尾行してみれば、その先に待っていたのはルパン! という意表をついた冒頭から、川に投げ込まれかけたいくつかの品物からルパンが鮮やかに殺人事件の模様と犯人像を推理し、その情報をもとにガニマールが犯人を追いかけることになって――というユニークな展開の一編です。
ルパンの一種安楽椅子探偵めいた推理の面白さもさることながら、果たしてその推理が当たっているのか、何よりも何故ガニマールに手を貸すのか……
大いに興味を引かれてみれば、ラストに待ち受けているのは、何ともルパンらしい人を食った、しかし見事な企みが待ち受けていて、特に人気が高いというのも納得であります。
この漫画版においては、このストーリーを丹念に描きつつも、ガニマールを手玉に取り、いたぶりまくるルパンの俺様ぶりが強烈――『水晶の栓』での溜飲を下げるような俺様っぷり――の一言で、しかしそれが嫌みなく決まるのも、この『VSルパン』で描かれてきたルパン像あってのものと言うべきでしょうか。
さて、続く第5巻では、『緑の目の令嬢』が漫画化されるとのこと。これまたロマンス度の高い原作だけに、今から楽しみなのです。
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