真堂樹『帝都妖怪ロマンチカ 猫又にマタタビ』 昭和初期の混沌に蠢くちょっとおかしな人間と妖怪たち
関東大震災からの復興も著しい昭和3年の帝都東京――その闇に巣くう妖怪たちと、その中の一匹・猫又の少年にぞっこん惚れ込まれてしまった美青年変態心理学者が繰り広げる、ユニークな妖怪小説であります。耽美で滑稽でそして少し恐ろしい物語で描かれるものは……
関東大震災で東京が焼け野原になったのを機に、どこからか様々集まってきた妖怪たち。そんな中の一匹、猫又の弐矢は、ある日偶然手にした雑誌に載っていた青年・折原嘉寿哉に目を奪われることになります。
というのも嘉寿哉の顔は、かつて弐矢が飼われ、愛した女性と瓜二つ。矢も楯もたまらず、街の不良少年の姿を借りて嘉寿哉の家を訪れた弐矢は、行き倒れのふりをして彼の家に潜り込み、おさんどんとして彼と共に暮らすことになったのでした。
さて、その嘉寿哉の肩書きは「変態心理学者」――今でいう異常心理学者。帝大を卒業した後は、恩師が主催する雑誌に寄稿しつつ、世にはびこるインチキオカルトに戦いを挑む毎日であります。
そんな中、嘉寿哉を訪ねてきたのは、四六時中得体の知れない視線に悩まされているという帝大生・富岡。社会主義運動にかぶれている彼は、お茶の水のカフェで出会った美少女に惚れ込んで以来、おかしな現象に悩まされるようになったというのです。
嘉寿哉が富岡を治療にかかりきりになってしまい不満顔の弐矢ですが、そんな最中に嘉寿哉の家に現れたのは、東京で不動産屋を営む妖怪・百目鬼と、秩父からやってきた犬神・白峰。ある理由でここにやってきた白峰を前に、弐矢は……
主人公コンビをはじめ、とにかく登場する男性キャラの大半が美形の本作。そこまで美形でなくとも、というか男性でなくとも(特に○○の姫は)いいのでは、という気もいたしますが、ここまで徹底されるといっそ小気味が良い――と言えるかもしれません。
と、ビジュアル面に目がまずいってしまうのですが、本作の基本はあくまでも妖怪小説であります。人間と妖怪のバディもの――というのは一つの定番パターンですが、本作の人間側の主人公である嘉寿哉は、基本的に妖怪(というより超常現象)否定派であり、そして弐矢が妖怪だと思いもしないのが、なかなかユニークなところでしょう。
それに対して弐矢の方は基本的には人間を食うことも辞さない――そもそも彼の今の美少年姿自体、街で絡んできた不良少年を喰らって奪ったもの――という、物騒な存在であります。
まあ弐矢の場合は嘉寿哉にデレデレなわけですが、登場する他の妖怪たちはもっとドライ、というか人間と異なるロジックで動く連中揃い。作中で東京に妖怪たちが巣くっているのも、震災で街に死と闇が溢れたから――という設定にも納得で、マスコット的ではない妖怪の存在は、なかなか好もしいところであります。
(それでいて弐矢をはじめ、妙に抜けている、というかどこかピュアな連中が多いのも、また妖怪らしくていいのですが)
そしてそんな人間と妖怪たちが絡み合うのが、震災から数年後、普通選挙を間近に控え、社会主義運動も盛ん――という活力と不穏さが入り交じった混沌の昭和初期、というのも本作の魅力でしょう。
史実と積極的に絡むわけではないものの、この時代が舞台背景としては想像以上に妖怪ものに馴染む――というのは嬉しい発見であります。
とはいえ――意外にヘタレな弐矢をはじめ、妖怪たちの繰り広げる騒動は実に楽しいものの――物語的には冷静に見るとあまり進展していないのも事実。
ひとまずの問題の根源は追い払ったものの、しかし物語を構成する様々な要素は、まだ謎と伏線だらけ、という印象があります。
そういう意味では、キャラクター&設定の紹介編という感覚が強い本作。
まだまだ本格的な物語はこれから、といったところではないかと思いますが、序章的な段階でも楽しめるのですから、物語が進展すれば――これはさらに楽しかろう、と期待したくなるのです。
『帝都妖怪ロマンチカ 猫又にマタタビ』(真堂樹 集英社文庫) Amazon

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