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2019.09.11

大石まさる『大江戸スモーキングマン』 煙男、江戸と読者を煙に巻く


 パワフルかつ叙情的なSF漫画を中心に活躍してきた大石まさるの新作は、なんと時代劇――田舎から出てきた冷や飯食らいの三男坊が、得意の煙術で江戸を騒がす悪を討つ、何でもありの大活劇であります。

 四国の小藩のそのまた支藩の侍の三男坊という、気楽といえば気楽な身分の男・加藤煙之進。兄に招かれ、四国から初めて足を踏み出した彼は、物見遊山気分で江戸に向かうことになります。
 その途中、破落戸たちにあわや落花狼藉の目に遭わされようとしていた娘を助けようとした煙之進ですが、実は彼女は公儀隠密の金髪くノ一・ハルワ、破落戸たちは江戸を騒がすある悪党の一味でありました。

 思わぬことから一味に敵視されてしまった煙之進ですが、彼には、実は人にはない特技があります。それは煙術――愛用の煙管から吹き出す煙は自由自在に姿を変え、とても実体がないとは思えないほどの動きを見せるのであります。
 煙術でなんと象を生み出し、悪党たちを蹴散らした煙之進は、「煙男」として江戸中の評判となるのですが、面白くないのは悪人の首魁・洲血忌潘苦(すちいむ・はんく)家老。

 自分の大望を幾度も邪魔する煙之進を、あの手この手で排除しようと企む潘苦。煙之進はハルワや弟分のあばれ猿・小聖とともに、江戸を守るために大暴れを繰り広げることに……


 というわけで、ハルワや潘苦家老(しかし直球すぎるネーミング)、しゃべる猿の小聖といった登場キャラクターを見ればわかるように、何でもありのコミカルな時代アクション世界が展開する本作。
 それでいて、主人公の煙之進の、田舎から出てきた冷や飯食らいという設定は、時代ものではしばしば見かけるシチュエーションという、そのギャップもまた楽しい作品です。

 作者は作品によって絵柄を変えてくることで知られていますが、本作ではかなり太めのくっきりした描線で、これまで以上に変えてきたという印象。
 しかしこれが時代劇と良くマッチして、リアルさとコミカルさ、ムチャクチャさが入り乱れた世界に、統一感を与えてくれていると感じます。

 その一方で、作者お得意の大柄で艶っぽいヒロイン枠としてハルワがいるのも楽しいところで、オムニバス回でのやけくそ気味なサービスシーンのあっけらかんとした突き抜けた感覚もまた愉快であります。
(この回で、彼女の周囲の男たちを「男は描きたくないので以降「犬」にします」と宣言して本当に犬にしちゃうすっとぼけ方もすごい)

 ヒロインといえばもう一人、中盤に登場する吉原の花魁・カラクリ姫も印象に残るキャラクター。
 名前から想像がつく(?)ように、パンチカードで動く自動人形というスチパン度高いキャラなのですが、そんな心を持たないはずの彼女が恋した相手が煙之進で――という物語はお約束ながらも美しく切なく、まず本作屈指のエピソードであります


 もっとも何でもありすぎて、時代劇なのかスチームパンクなのかファンタジーなのか、読んでいてちょっと戸惑うところが――上で述べたように絵の方は調和しているだけに――あるのは否めないのですが、最終回のとんでもないにもほどがある展開を見れば、あれこれ言うのが野暮というものなのでしょう。

 そのくせ、ラストにはかなりシブい史実を使ってくるなど、最後の最後まで煙に巻かれ続けた、何ともユニークな作品でありました。


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