九里一平『暗闇同心 鍔鳴剣屍郎 怨霊斬り』 宿命の青年剣士vs悪霊! 直球ど真ん中の時代伝奇劇画
漫画家、そしてタツノコプロで活躍したアニメ業界人である九里一平が、同じくタツノコプロ出身の脚本家・酒井あきよしの原作で描く直球ストレートな時代伝奇劇画であります。元禄時代の京を舞台に跳梁する悪霊たちに挑む青年剣士・鍔鳴剣屍郎。しかし彼の歩む道はどこまでも険しく……
怪僧・道鏡が甦らせたこの世に恨みを残す悪霊たちにより、次々と怪事が起こる元禄の京。
この悪霊たちに手を焼いた京都所司代・小笠原佐渡守に比叡山の大僧正が引き合わせたのは、比叡山で育てられた青年剣士・鍔鳴剣屍郎――悪霊を発見すると鍔鳴りを起こす妖刀・童子切安綱を手に、この世を守護する四禽の刺青を背にした剣屍郎は、白頭巾姿で次々と悪霊を倒していくことになります。
そんな中、求婚者が次々と奇怪な死を遂げる四辻家の姫・雪と出会った剣屍郎。その雪に母の面影を感じ、強く惹かれる剣屍郎ですが――四辻家はこの世に在りながら代々魔界の「草」として魔界の手引きをしなければならない家、佐渡守は雪の存在を危険視し、抹殺を命じるのでした。
佐渡守の命に逆らい。雪を救わんとする剣屍郎と、己の定めから逃れるため、自分も背に四禽の刺青を背負おうとする雪。悪霊たちの力が強まる中、二人の愛の行方は……
小説はもちろんのこと、漫画の世界でもストレートな伝奇時代劇というものは少なくなっている昨今。しかし本作は、このあらすじを見ればわかるように、直球ど真ん中、剛速球の伝奇時代劇です。
そしてそれを描くのが大々ベテランの九里一平、アメコミに影響を受けたというその描線――私が子供時代に観た、氏がキャラクターデザインを担当した『ゴールドライタン』や『闘士ゴーディアン』も、スマートでありつつも濃い絵柄が印象的でした――は本作でも健在であります。
特に主人公の剣屍郎は、絵柄に負けずなかなか濃いキャラクター。魔界の血を引く孤独な剣士という造形自体は定番ではありますが、明朗熱血漢的なビジュアルの一方で、悪霊を斬るたびに血の涙を流すという設定は、ある種のミスマッチぶりが強烈な印象を残します。 また、登場する悪霊や魔物の数々の姿は、良い意味でスタイリッシュさのない泥臭さがその悍ましさを強調して、この世に在らざる怪物ぶりを感じさせるのです。
さて、物語の方は「退魔編」「決闘編」「魔性の肌編」「完結編」と四部構成。
ヒロイン・雪(小野篁の末裔という設定)を苦しめる小野小町の悪霊と対峙する「退魔編」、新たに復活し次々と道場破りを繰り返す宮本武蔵の悪霊と激突する「決闘編」、血の定めから逃れるために放浪する雪の姿を描く「魔性の肌編」、そして剣屍郎と雪の運命の結末を描く「完結編」――と物語は展開していくことになります。
ちょっと面白いのは、剣屍郎が正義感と、そして何よりも己の背負った宿業から悪霊と対峙していくのに対して、彼に悪霊との戦いを依頼する所司代方はあくまでも治安維持が目的であること。
そのため、この世に更なる悪霊を呼び込みかねない雪の存在、そして剣屍郎と彼女の愛は、所司代にとっては排除すべきものでしかいのですが――終盤において、悪霊のみならず権力を向こうに回して一種の逃避行を繰り広げる二人の姿に漂うある種のやるせなさも、印象に残るところであります。
というわけでこの直球の時代伝奇ぶりが魅力の本作ですが、その一方で、その直球さがオールドファッションなものに映ってしまうのもまた事実ではあります。(折角の画のクオリティが、第四部で急に落ちてしまうのも残念)
また、この黒幕が、何故この元禄を舞台に跳梁するのか等、伝奇ものとしての必然性が今ひとつ乏しい点も気になりました。
現在の作品としては得難い個性を持つ作品だけに、必ずしも万人に勧められるというわけではないのが勿体ないお話ですが――電子書籍版は各部毎の発売となっているので、興味のある方は、まずは第一部をお手にとっていただくのがよいかと思います。
『暗闇同心 鍔鳴剣屍郎 怨霊斬り』(九里一平&酒井あきよし 出版ワークス) 第1部 Amazon/ 第2部 Amazon/ 第3部 Amazon/ 第4部 Amazon




| 固定リンク
