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2019.09.07

森田信吾『悲恋の太刀 織江緋之介見参』 森田剣術アクション、ここに復活!


 大ファンだというのにチェック漏れしてしまい今頃のご紹介で大変恐縮ですが、上田秀人の原作を森田信吾が漫画化した『悲恋の太刀 織江緋之介見参』が雑誌スタイルの増刊としてまとまりました。「時代劇コミック斬」誌に現在も連載中の本作、原作付きながら森田作品としか言いようのない快作です。

 江戸時代初期、移転前の吉原に飄然と現れた青年・織江緋之介。剣の腕は滅法立つものの、吉原のしきたり――いや女性については全く知識のない彼を気に入った遊女屋・いづやの主・総兵衛は、彼を見世に仮寓させることになります。
 やがて次々に何者かに襲われることとなった緋之介といずや。実は緋之介の本名は小野友悟――将軍家指南役の子である彼は、武者修行に行った柳生で、ある秘密を知ったことから、命を狙われていたのであります。

 しかし秘密を持っているのは緋之介だけではありません。どうやらいずやにも、幕閣にまで繋がる秘密があるようで……


 と、吉原を舞台に様々な陰謀が交錯し、小野一刀流と柳生新陰流が激突する、上田秀人初期の名作を漫画化した本作。もちろん原作も大好きな作品なのですが、それと同時に私を喜ばせ、そして驚かせたのは、漫画化を担当したのが森田信吾であったことです。
 森田信吾といえば、一般には『栄光なき天才たち』かもしれませんが、しかし私にとっては幕末バイオレンス剣術漫画の最高峰『明楽と孫蔵』をはじめとする、数々の剣術アクション漫画の作者なのですから……

 その剣戟描写は、漫画的なケレン味を持ちつつも、体の動きのリアルさを感じさせ、そして暴力としての凄みをも持ち合わせたもの。時にやり過ぎ感すらあるそれは、しかし作者ならではのアクション描写として、大いに魅力的だったのであります。
 しかしこの数年はほとんど作品を発表することなく、大いに残念だったのですが――それが本作を引っ提げて復活したのですから、もうたまらないのであります。


 そして肝心の内容の方ですが――これが冒頭に述べたとおり、森田信吾の作品、としか言いようのない内容。
 それも、上で述べたド派手でスピーディな剣戟の魅力はもちろんなのですが、最も作者らしさを感じさせてくれたのは、その独特の台詞回しなのであります。

 たとえば第一話冒頭、総兵衛が目の前に現れた緋之介を評するモノローグ――
「白刃火花散らすさ中を足捌きだけで避し――…!! 血煙土煙に動じず涼しい眼であの若侍 重心ずらさず喧嘩衆の壁……抜けた!!」
 説明口調のようでいて独特の躍動感を感じさせる台詞回し――これであります。

 そして何よりも森田節が冴え渡るのは、剣戟の前の挑発――煽り文句であります。
 特に柳生の刺客団の「秘伝の陣形しいて囲めいッ」という言葉に対して――
「……何だ〝陣形〟って?(白けた表情で)」「…うぬら世の中をナメておるな?」「しゃべる幽霊か………笑える!」
という緋之介の台詞、煽り性能が高すぎて最高なのです。(原作では結構お行儀の良いキャラでしたが、これはこれでOK)

 と思えば脇キャラたちも、「月が…赤い!」と斃れる忍びの頭領、「たしかに俺は金をもらったかも知れぬ…だが最後に人間を動かすのは〝情〟!! ……〝恋〟だ!」と太夫誘拐に失敗して緋之介に斬られた旗本奴が言い残したりと、ロマンチシズム溢れる言葉を放つのも、また良いではありませんか。

 森田台詞について話し出すと止まらなくなるのでこのくらいにいたしますが、感心させられたのは台詞の方がこれだけ漫画独自でありつつも、物語展開は原作をほぼ忠実に再現している点です。
 原作と読み比べましたが、省いた場面は一つのみ、その一方で原作では数行で済まされた緋之介と柳生烈堂(これがまた独自の構えで格好良い!)の対決をほぼ一話かけて描く等のアレンジはあるものの、それ以外はかなりのところまで原作のままなのです。

 もちろん原作ものなのだからそれは当たり前、と言われるかもしれませんが、原作の内容をきっちりと咀嚼した上で、なおも漫画としての独自性を見せるのは、これは並大抵のものではないのは言うまでもないでしょう。


 もっとも、絵柄的には『明楽と孫蔵』などの頃に比べるとちょっと厳しいものがあるのも事実(それでも『駅前グルメの歩き方』の描き下ろしよりも遙かに良し)。しかし作者が作者らしさを失わずにこうして復活してくれたのは、本当に嬉しいお話であります。
 内容的には本書で原作のほぼ半分、後半戦もぜひ――と、今から期待する次第です。


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