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2019.09.05

やまあき道屯『大江戸恐龍伝』上巻 平賀源内と龍の物語、画として甦る!


 夢枕獏と『明治骨董奇譚 ゆめじい』のやまあき道屯というユニークかつ納得の組み合わせによる、大作『大江戸恐龍伝』堂々の漫画化であります。黄金と龍の国・ニルヤカナヤの謎に挑むのは、かの平賀源内――奇想天外な冒険の旅の始まりであります。

 破天荒なまでの才を持ちながらも、時流ゆえか運ゆえか、世に受け入れられず白眼視される平賀源内。そんな彼のもとに豪商・越五屋から持ち込まれたのは、ニルヤカナヤという島に漂着したという息子を連れ帰ってほしい、という依頼でありました。
 手がかりは島からただ一人――瞼を切り取られるという無惨な姿で――帰ってきた船乗りが持っていた、謎の記号が記された紙片のみ。しかし源内は、この難題に俄然闘志を燃やして謎解きを快諾するのでした。

 しかしそれ以来、彼の回りに出没するのは怪しげな者たち。薩摩の剣法を操る謎の一団、琉球渡りの美少女剣士、不思議な卵から生まれた奇妙な鳥――そんな連中の引き起こす騒動の中、ついに謎を解いた源内は、田沼意次を説き伏せると巨船「ゑれき丸」を建造、親友の杉田玄白らとともに、ニルヤカナヤ目指して旅立つことに……


 冒頭に述べたとおり、この漫画の原作は夢枕獏の同名の作品であります。原作は単行本で全5巻(文庫本で全6巻)という大作ですが、本作はそれを上下巻という形で漫画化しています。
 もちろん、この分量では原作に100%忠実な漫画化は不可能。相当なダイジェストが行われ、登場人物もある者は省かれ、またある者は設定を変えられ――とかなり大きな変更が加えられています。
 その最たるものは、原作では源内の愛人の仇な美女(そして……)だったのが、こちらでは琉球からやってきた謎の美少女剣士となったお吟ではないかと(あるいは、この巻のラストでとんでもない姿で登場するあの男かも)思いますが、それはさておき……

 このように大きくアレンジを加えながらも、しかしこの漫画版から受ける印象は驚くほど原作どおり――というより『大江戸恐龍伝』は確かにこういう物語だった、と思わされてしまうのであります。

 それはもちろん、一つには原作ダイジェストの巧みさにあることは間違いありません。
 原作ではそれぞれ全く別のところから持ち込まれ、やがて源内のところで一つになった龍と黄金とニルヤカナヤの暗号を、越五屋からの依頼という形で全てまとめてみせたのはその代表ですが――重要な部分を残して枝葉はばっさりやる思い切りの良いアレンジが、原作の魅力を濃縮してみせたといえるでしょう。

 しかしそれ以上に間違いなく大きいのは、本作の画――特に主人公たる平賀源内の画であります。

 微に入り細を穿つ詳細な、それでいてどこか滲んだようなタッチの背景と、漫画的にディフォルメされたキャラクターが、不思議なハーモニーを醸し出す――作者の画にはそんな特徴があります。
 それがこの『大江戸恐龍伝』にマッチするのか――一瞬抱いたその疑問は、もちろん冒頭からあっさり消えたのですが、その一番の理由は、源内の存在にあります。

 ギョロリとした大きな目玉に利かん気の強そうな口元、ホウキのように逆立った髪――ある意味本作のキャラクターの中で最も漫画的とすら感じられる源内ですが、しかしそれが一度物語の中で動き出せば、「あの源内がいる!」としか思えなくなるのであります。
 それは何よりも、源内の表情の豊かさによります。人を食ったような不敵な面構えや、発明に夢中になった時の子供のような表情はもちろんのこと――内に抱えた悩みと憂いが垣間見せる時の、愛する者を慈しむ時の、そんな様々な表情の一つ一つが、彼の複雑な内面を浮き彫りにしてみせるのであります。

 実に本作の源内は――これは原作の時点から――いわゆる巷説の平賀源内のイメージを忠実に踏まえつつも、しかし単なる発明家でも山師でもなく、その実、複雑な屈託を抱えた人物として描かれています。
 その複雑さを如何に原作から切り取り、描いてみせるか? 実はそれこそが『大江戸恐龍伝』を画にする際の条件であり、最大の難関といえるのですが――本作はそれを軽々とクリアしてみせたのです。


 さて、先に述べたようにこの漫画版は上下巻。実はこの上巻の時点で、原作単行本版全5巻のうち、第4巻までを消化しているのですが――さて、それでは下巻で描かれるものは何なのか。
 それについては、また日を改めて紹介させていただきたいと思います。


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