瀬下猛『ハーン 草と鉄と羊』第6-8巻 海の向こうからの悪意、その正体
しばらく取り上げておりませんでしたが、かの源義経が海を渡りテムジンとして大陸を駆ける『ハーン 草と鉄と羊』、第6巻から第8巻までを紹介いたします。愛する人を得た上、キャト氏の族長を継いだテムジン。しかし海の向こうから追ってきた思わぬ悪意が、彼を追いつめていくこととなります。
海を渡り、過去と名前を捨て、草原に生きる道を選んだ源義経――いやテムジン。幾度もの窮地を潜り抜けつつ、キャト氏の英雄イェスゲイの一族と出会った彼は、亡きイェスゲイの子として族長を継ぎ、メルキトの族長にさらわれた娘・ボルテを救出して結ばれることとなります。
それから数年、子供も産まれ、勢力を伸ばし順風満帆かに見えたテムジンですが、しかし金の完顔襄に仕える謎の老人――テムジンの義経としての顔を知るこの老人の企みによって、盟友ジャムカと決裂。二人は全面衝突を余儀なくされるのでした。
かくて第6巻から第7巻にかけて描かれるのは、歴史にその名を残す十三翼の戦い。ジャムカに比べて寡兵のテムジンが、部隊(翼)を13に分けて臨んだことからこの名が残る戦いであります。
しかしいかに戦上手のテムジンといえども、大陸に姿を現した時からの友であるジャムカ相手には勝手が違い、正面からの戦いには苦戦することに。しかしもちろん彼の得意とするのは奇策、狭い峡谷にジャムカ軍をおびき寄せ、鵯越の逆落し再びか、という策に出ようとするのですが……
しかしその時、あたかも彼の策を知っていたかのように後ろから射かけられる矢の雨。その一本に傷を負わされたテムジンは、親衛隊の青年・ジェルメに救われ、辛くも落ち延びることになります。
(ここで幾つもの逃走ルートをあらかじめ用意してあるテムジンと、その動きすら完全に読み切っている敵の存在感が面白い)
元は鍛冶屋の息子であったジェルメの故郷の村に匿われ、一息つけたかに見えたテムジン。しかしそこでもさらなる戦いと、新たなライバルとの遭遇が待ち受けていたのです。
放浪の果て、ボルテの父であるコンギラトの族長のもとにたどり着いたテムジンたちですが、そこで彼が出会ったのは、遙か西域からやってきた商人の少年・イルハンで……
以前からテムジンたちの物語とは全く別の場所――シルクロードの遙かな西の地で、商人を目指して奮闘する姿が描かれていたイルハン。その彼とテムジンが、ここでようやく出会うこととなります。
もちろん初対面、そして生まれも育ちも職業も全く異なりますが、しかし片や東の果て、片や西の果てとそれぞれ異郷から、大望のみを胸に草原に流れてきたという点で二人は大きな共通点を持つということなのでしょう。そんな彼らがあっという間に胸襟を開き、共に遠い世界を夢見て語り合う姿には、何とも気持ちの良いものがあります。
もちろんテムジンは今は再起のために流浪の身、そしてイルハンは旅から旅で利を得る商人というわけで、この邂逅はまずは一時のものですが――しかしこの出会いが大きな動きを呼ぶことは間違いありません。
そんなテムジンが定めた新たなターゲットは金国。いまだに北方に覇を唱える大国とはいえ、その巨体が災いして様々な部族の反抗に手を焼く金を利用して、テムジンも復権を成し遂げようというのです。
そしてさらにもう一人、同じような形で一足先に復権を遂げた者が。それはケレイトのオン・ハーン――弟にその座を追われ、一度は浮浪者のようななりで西域にまで姿を現した彼が、ここで金の力を借りたとはいえ、あっさり復権したのであります。
この辺り、いつの間にか追放されたと思えばびっくりするくらい簡単に復権したのは、本作ならではのテンポの良さが妙な方向に出たという印象が強いのですが……
それはさておき、完顔襄と対面したテムジンの前に現れたのはあの老人。その正体は何と、というところで第8巻は終わるのですが――この老人の正体には悪い意味で驚かされたというのが正直なところ。
なるほど、ここに出せるようなレベルの実在性で、義経の手の内を知るとすれば、この人物もアリといえばアリですが――さすがに海を越えてまで義経に祟るには、スケールや迫力に欠ける、と言わざるを得ません。
もちろんそれは私の勝手な印象と言ってしまえばそれまでですが――この先語られる二人の過去によってこの印象は覆されるのでしょうか。
この先、テムジンを支える綺羅星のような面々も少しずつ顔を見せ始めたところでもあり、まずはこの先を追うことにしましょう。
『ハーン 草と鉄と羊』(瀬下猛 講談社モーニングコミックス) 第6巻 Amazon/ 第7巻 Amazon /第8巻 Amazon



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