劇団ヘロヘロQカムパニー『冒険秘録 菊花大作戦』 驚きの原作再現率の大活劇
というわけで、昨日ご紹介した『冒険秘録 菊花大作戦』の、劇団ヘロヘロQカムパニー(以下「ヘロQ」)による舞台版であります。何者かによって明治天皇が誘拐されるという大事件に押川春浪と天狗倶楽部が挑む物語を、ほぼ原作そのままに舞台で再現してみせた快作であります。
明治45年、赤坂の料亭から何者かによって連れ去られた明治天皇。7日後に日本とロシアとの秘密条約調印を控えた中、事が公になれば、いまだに不安定なロシアとの関係がさらに悪化しかねない――いやそもそも、一国の元首が誘拐されるとは、国家の恥以外のなにものでもありません。
軍も警察も表だって動かす事ができない中、東京市長・尾崎行雄は、最後の希望を押川春浪と天狗倶楽部に託すのでした。
かくてこの密命を受けた春浪は、天狗倶楽部の精鋭7名を選出、そこに旧知の警視庁の黒岩刑事と妹の時子嬢、憲兵隊の織田少尉を加えた面々で、日本の命運を賭けた任務に挑むことになります。
しかし犯人からの要求もない中、事態は五里霧中の状況。果たして犯人は何者なのか、そしてその狙いは何なのか。そして何よりも天皇陛下はどこにおわすのか――刻一刻迫るタイムリミットが迫る中、春浪と天狗倶楽部の活躍や如何に!?
と、昨日書いたのと同じあらすじ紹介で恐縮ですが、驚くほどの原作再現率であったこの舞台。
二段組み300ページの単行本を2時間半程度で舞台化しているため、もちろん物語のディテールやチョイ役など、省略している部分は多々あるものの、それでもメインどころだけで20名近いキャラクターと、舞台となる7日間の出来事をほとんど全て拾い上げているのには、感心するほかありません。
原作との大きな相違点も、『いだてん』効果か三島彌彦の出番が大きく増えていたこと(短距離選手にあまり長距離奔らせては――という気もしますが)、キャラクターの一人の性別が変わっていること、原作のエピローグの後にもう1シーン加わっていることくらい。
逆にこれは再現が難しいのではないかな、と思った終盤のアクションシーンの数々は、冷静に考えるとギャグになりかねないような形でありつつも、出演者の熱演でカバー。さらにラストで重要な役割を果たすあるキャラクターもきっちり再現しているのには驚きました。(舞台挨拶の最後の最後、このキャラクターが一気に持っていくので、DVD化の暁にはぜひご覧を)
私はヘロQの舞台はこれまで『魔界転生』と『犬神家の一族』しか観ていないのですが、どちらも映画など他のバージョンの要素も取り入れつつ、原作をきっちりと踏まえた舞台であったという印象があります。
今回は他のバージョンというものがないわけで、それはそれで非常に難しかったのではないかと思うのですが――しかしそれでも今回も、ヘロQはしっかりとやり遂げてみせた、と感じます。
何よりも本作は原作もさることながら(というのは非常に申し訳ないのですが)、登場人物の大半は実在ながらほとんどの観客にとっては馴染みの薄い人物。それだけに難しい部分は多々あったのではないかと思いますが――しかしその部分を自由に膨らませていたのも楽しめました。
正直なところ、原作は登場人物のキャラクター描写の掘り下げをあまり行わない作風なのですが、役者が目の前で演じる舞台という形式は、その点はむしろキャラクターを血の通ったものにするという点で良かったのかもしれません。
ちなみに押川春浪役は当然(?)座長の関智一が演じていましたが、今の目から見ると微妙に難しい部分もあるこの人物を、明るいバージョンの関智一として気持ち良く演じていたのは流石でした。
しかしこの舞台のMVPは、開演前の前説から幕が下りた後までほとんど出ずっぱりで、小説でいえば地の文、映像作品でいえばナレーションにあたる役割を果たしていた講談師役の長沢美樹ではないでしょうか。
もちろんオリジナルキャラクターですが、冷静に考えると異常にシーン数(場面転換)の多いこの舞台を一本のものとしてまとめたのは、この方の語りあってのことと、心から思います。
というわけで今回も大変楽しませていただいたヘロQの舞台。これだけ楽しいのだから、ぜひ他の天狗倶楽部ものも――というのはもちろんファンの無茶ぶりではありますが、そう思いたくなるほどの舞台でありました。
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