陶延リュウ『百大兵器譜』 俊英が描く和製武侠大活劇
昨日ご紹介した『無限の住人 幕末ノ章』で作画を担当している陶延リュウ。そのデビュー作である2018年夏の四季賞受賞作が、本作『百大兵器譜』であります。わかる方であればピンとくるかと思いますが、ジャンルは武侠もの――伝説の武器を求める兄妹が繰り広げる活劇です。
舞台となるのはいずれの時代かの中国――そのとある町に、放浪の年若き龍鳳胎(双子)の兄妹・須歓と空月が現れたことから物語は始まります。
到着早々、町の破落戸を妹の空月が色仕掛けで騙し、兄の須歓が叩きのめして金を奪うというとんでもない行動に出た兄妹。しかし彼らの本来の目的は、兵器――二人は強大な兵器を求めて町の商人を訪れることになります。
しかしそこに襲いかかってきたのは、先ほどの破落戸たちの仲間――町を牛耳る腹兜幇の面々。そしてその老大(頭領)こそは、「百大兵器譜」の一人を名乗るのですが――それを耳にした二人の目つきが変わります。
そもそも百大兵器譜とは、この世の「武」を仕切る最強の武術者集団――そのメンバーそれぞれが、世界最強の百本の兵器の一つを持ち、その順位が刻まれた兵器牌を所持していることから俗称「百器譜」。
そのあまりに強大な力から朝廷からもある種独立した勢力として認められ、武力と権力を兼ね備えた「一器当千」の強者たちなのであります。
しかしその百大兵器譜こそがまさしく兄妹の目的。老大が操る伸縮自在の鉄球、殺器「黒爆星」に挑む須歓が手にした古ぼけた槍。それこそは……
武侠小説の大家の一人・古龍の代表作『多情剣客無情剣』をはじめとする作品には、「兵器譜」なるものが登場します。これはいうなれば武術界のランキング――武術界に名を轟かせる達人とその操る兵器を列挙した番付であります。
冒頭でわかる方であればと書いたのは、この「兵器譜」の存在――その意味するところは違えども、最強の武術者と兵器を示すものであることは共通で、まず間違いなく「百器譜」の設定は、これを踏まえたものなのでしょう。
しかし本作はもちろん独立した作品――そうした先行する作品に関係なく、一つのアクション活劇として成立している作品です。
悪党相手とはいえカツアゲも辞さないエキセントリックな(しかし重い過去を背負った)主人公兄妹や、腹兜(中国時代劇を見ているとしばしば登場する、子供の腹当てのような形の女性の下着)を身につけた男たちという珍妙な敵集団のキャラの面白さ。彼らの手にする兵器と、それを用いたアクション。そしてもちろん、こうしたキャラやガジェットを支える「百器譜」というアイデア……
登場人物や技の名前など、もう少し「らしい」とさらに良かったかな――というのはマニアの戯言、日本ではまだまだマイナーな武侠ものを、本作は換骨奪胎してみせたと言うべきでしょう。
そして本作で見せた武器アクションが、作者が『無限の住人 幕末ノ章』に起用された理由の一つなのでは――というのはこれはもちろん全くの憶測ではありますが、しかし名門・四季賞(『無限の住人』もこの賞が初出であります)入賞は納得できるところです。
そしてある意味気が早い話で恐縮ですが、いつか本作の物語の続きを読んでみたいと――武侠ファンとしては、そう思ってしまうのであります。
『百大兵器譜』(陶延リュウ webコミックサイト モアイ掲載)
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