陶延リュウ『無限の住人 幕末ノ章』第1巻 万次vs新選組!? 不死身の剣士ふたたび
webアニメもスタートした『無限の住人』――その続編第1巻が登場しました。タイトルのとおり舞台は幕末、坂本龍馬と出会った洋行帰りの万次が挑む相手は新選組――百人斬りの男と、幕末きっての戦闘集団の死闘の始まりであります。(『無限の住人』の結末に触れますのでご注意を)
かつての逸刀流との死闘から数十年――その後も悪人を斬り続け、千人を斬ったものの相変わらず不死の運命から解放されぬ万次。海で流されてアメリカにたどり着き、そして帰ってきた彼は、今は土佐の中浜に隠棲の身であります。
ある日、その中浜万次(!)を訪ねてきたのは、一癖もありげな青年・坂本龍馬。普通の人間であればホラと決めつけそうな万次の話を受け入れ、意気投合した彼は、万次を京に誘うのでした。
そういえば京はまだ行ったことがなかったと龍馬についていく万次ですが、しかしその当時の京は修羅の巷。さっそく見回り中の新選組に目を付けられた万次は、その集団戦法の前に滅多斬りの憂き目に遭うのでした。
しかしもちろん万次がそれで死ぬはずもありません。久々にその不死身ぶりを発揮して隊士たちを皆殺しにした万次は、龍馬とともに京に潜伏、武知半平太や岡田以蔵らと出会うことになります。
一方、京に不死身の剣士が現れたことを知った新選組は、その捕縛を決定。そしてその命を与えられたのは死んだはずの山南敬助率いる「逸番隊」……
他の何の続編があったとしても、この作品の続編はないだろうと思っていた『無限の住人』。沙村広明は「協力」のクレジットという扱いで、実質的にはスピンオフに近いものを感じますが、しかし何はともあれ、こうして思いもよらぬ再会ができたというのは嬉しい話ではあります。
さてその本作は、『無限の住人』本伝の最終回の間に挟まる物語。逸刀流との戦いを終えた万次が、明治の御代にある人物と出会って――というのが最終回の物語でしたが、本作は江戸時代後期の逸刀流との戦いと、明治の間のストーリーということになります。
なるほど、この最終回では、万次がアメリカに渡ったことも、幕末に新選組と戦ったことも語られていますが――それをこう膨らませてみせたか、と感心させられます。
何しろ新選組といえば、己の武のみで成り上がって見せた武闘派集団。ある意味、逸刀流が理想としてきたものを体現したと言えなくもありません。もっとも、万次がその身を以て知ったとおり、その歩む道は相当異なるようですが――何はともあれ、万次にとっては相手に不足なしでしょう。
この第1巻では、万次と対決するのは平隊士で、雑魚には異常に強い万次の敵ではありません(冒頭のアメリカでの対ガンマン戦を含め、万次がかつての強敵たちの武器をガンガン使ってくれるのが楽しい)。
しかし敵の真打ちとして、「逸番隊」なる、いかにも「らしい」連中が控えているのが嬉しいところ。新選組の裏の実働部隊と言うべき彼らには、もう一つ、これは万次の存在自体に関わる目的もあって――と、万次の戦いに必然性を与えているのにも納得です。
ただ、本伝ではほとんど全く――逸刀流出現の背後に武士の堕落という流れはあったものの――史実や、(ごくわずかの例外を除いて)歴史上の人物と絡まなかったのに対して、本作はそれとはほぼ正反対の路線というのには、ある種の違和感を感じないでもありません。
もちろん、幕末を舞台にしておいて史実と絡めないというのはちょっとあり得ない話、そして万次が歴史上の有名人と絡むのも、夢の対決ではありますが……
そんなこともあって、繰り返しになりますが、本作は続編というよりスピンオフの印象が強いのですが――しかし、だからこそ描けるものもあるのでしょう。
今はまず、幕末の歴史にどのように万次がその足跡を残すのか、素直に楽しみたいと思います。
『無限の住人 幕末ノ章』第1巻(陶延リュウ&滝川廉治&沙村広明 講談社アフタヌーンコミックス) Amazon

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